1月17日(金)
コチア産業組合で翻訳を担当していた故・野田良博さんが所蔵していた日本語書籍、主として古典文学書が、アシスにあるサンパウロ州立大学(UNESP)日本語学科に寄贈されることになった。十五日、野田さんの助手としてコチア産組で翻訳に携わっていた田代エリーザUNESP助教授らが野田さんの家を訪れ、妻のゆり子さんの立ち会いのもと、本を搬出した。
野田さんは二〇〇一年の九月十三日に肺気腫で亡くなった。サンパウロ市ブタンタンにある自宅の書斎には、高野書店などを通して購入した日本語書籍数百冊が残された。この貴重な蔵書が散り散りになってしまうのは忍びないということで、今回の寄付が決まった。
野田さんは、ブラジルに駐在した外交官で、『日葡事典』の編纂に従事した野田良治さんの息子。コチア産組では、内部文書、週報、月報などの翻訳を担当していた。日本語を使える人が少なくなっていたため、貴重な人材だった。ゆり子さんは夫の仕事ぶりを思い返して「努力家でした。無口でしたけどね。コチアのためを思って仕事をしているように見えました」と話す。エリーザさんも共に仕事をした時期を振り返り、「まじめな人でした。私の翻訳はいつも訂正で真っ赤になって帰ってきた」と語る。そのエリーザさんがアシスに日本語の教師として移ったことが、本の行方を決めた。
エリーザさんと一緒にアシスから訪れた岡本モニカ助教授、城セシリア教授などと一緒に運び出した本は、ダンボール箱でちょうど十箱。高野書店が車を出し、回収した。
ブラジルの大学では国際交流基金などから日本語書籍を受け取ったり、大学が買ったりすることはあるが、エリーザさんは「日本語の書籍は高くて、必要なほどはない」と現状を話す。野田さんの蔵書には今昔物語、源氏物語などの古典が揃っていて、非常に役に立つだろうとのこと。
ゆり子さんは「主人もよろこんでいるでしょう」と話していた。それでも、書斎の壁一面を埋め尽くしていた夫の形見がなくなって「寂しくなりません」と聞かれ、「なりますよ、そりゃあ」と答えた。