カンポス・ド・ジョルドンの援協の老人ホーム「桜ホーム」には、立派なゲートボール・コートがある。だが、プレーする人はいない。入居者は、プレーする体力はありそうだが、気力や関心がなさそうだ▼十九人の入居者には、発声を含めた体操、簡素なゲーム、ホーム内清掃などにより日常生活に小さな変化がつけられている。NHKの映像は、他人が推し量るのはむずかしいが、毎日の最大の楽しみにはなっていないように見受けられる▼入居者たちの多くは、八十年もの人生を歩んできて、いまなお旅路にある。一女性は、共働きしている娘夫婦の留守番をする日常だったが、食器洗いの際、皿をすべらして割るようになった。娘に迷惑はかけられないと、日系の老人ホームを見てまわった。桜ホームには体験入居を試みた。娘が送り迎えをしてくれた。それも度重なっては悪い、と正式入居を決めた▼一夫婦は、入居した段階では妻のほうが文字通り自立そのもので元気、足の不自由な夫の行動をこまめに支えていた。数年経て妻は急激に老け込み、無気力さが他人にもわかるほどになった。いま、ほかの人とはほとんど会話をしなくなった妻の食事の世話などを、杖をついた夫がしている▼入居者たちの状況の好転は稀だろう。ともあれ、去る元旦のアルモッソには全員が食堂に集まって「新年おめでとう」を唱和した。財政難のホーム経営にこれ以上の大きな支障がなく、入居者たちが穏やかな日常を過ごせるよう願っている。(神)_
03/01/17