1月16日(木)
街角のバールやフェスタでは、輪になって太鼓やカヴァキーニョを手に、楽しそうに歌をうたっている若者たちをよく見る。あの中には必ずといって良いほどパンデイロ(タンバリン)がある。ブラジル大衆音楽には欠かせない楽器だ。
日本では子どものオモチャのように思われているパンデイロだが、安井さんが叩き始めると、そのイメージは一変する。かすかに響く大太鼓、ハイハットが刻む細かい十六分音符、アクセントの利いたスネアドラムの連打――。それら全てが、シンプルなその打楽器から独特のハーモニーを持ってたたき出される。とても、二本の手だけで叩いているとは思えない。
日本のパンデイロ奏者の第一人者、安井源之新さんは「多彩さがこの楽器の魅力。この楽器はまだまだ発展途上です。新しい演奏法の可能性はまだまだある」という。スタジオ・ミュージシャンとして録音に参加したCDは約三百枚。小曾根真、松本英彦、スティーブ・ガッド、アンソニー・ジャクソンら世界的に有名なミュージシャンとも共演している。
「なんて美しい言葉!」「このリズムはどうやったら出るんだろう?」。中学生のときにジョアン・ジルベルトとセルジオ・メンデスに惹かれて、ブラジル音楽に傾倒した。だから上智大学のポ語学科に進学し、八一年に派遣留学生として一年間ブラジルに滞在したこともある。
ここ数年で何度か〃パンデイロの王様〃マルコス・スザノが訪日公演し、ワークショップをやっている関係で、徐々に認知度は上がっているが、安井さんの学生時代は「日本でブラジルのリズムの情報はまともに入っていなかった。東京のライブハウスで演奏するブラジル人を見ながら〃ぬすんだ〃」そう。
学生時代からプロとして活動し現在は約二十年の音楽家歴をもつ。九九年からはブラジルに駐在しながら、アーティストとしても活動を行っている。
昨年七月には、フルート、サックス奏者として世界的に有名な中川昌巳さん、ブラジル人マルチ・ミュージシャンのフィロー・マッシャードさんと、学生時代からの憧れであったブラジルでのコンサートを開いた。
来月初旬にはそのマッシャ―ドさんと二人で、アイディアを出し合いながらつくったCDを、日伯両方で発表する。タイトルは「F to G」。スタンダード・ナンバーとマッシャードさんの曲を中心に全十四曲を収録している。国内では「ネットレコード社」から、日本では「中南米音楽社」と通じて主要CD店で取り扱われる。
また、安井さんから直接パインデイロを習いたい人には、ブンバ出版社(パウリスタ大通り八〇七番 十六階一六一五号室=問い合わせ電話3141・3031)で、毎週月曜日午後七時半から講習会があり、一回十レアルで誰でも参加できる。なお新CDも同出版社で入手可能とのこと。
「何でも飲み込んで消化してしまう多様性、懐の広さがブラジル音楽の魅力です」。三百種類もの打楽器を操るという安井さんは熱く語る。簡単そうにみえて、実は奥の深いパンデイロ。叩いてみたら、別のブラジルが見えてくるかも。