1月16日(木)
ブラジル音楽を歌い続けて二十年、神奈川県茅ヶ崎市在住の歌手・斎藤みゆきさんが、昨年六月に完成した初めてのアルバムCDのプロモーションを兼ねて十日、来社。「曲はすべてブラジルの味わいにあふれたものですが、当然日本人らしさも出ている。本場の反応を確かめたい」と語った。十六日までの滞在中はサンパウロ、リオを訪ね、たっぷりとブラジル音楽の栄養を吸収していく予定で、「ゆくゆくはライブなどブラジルでも活動が出来れば」と夢見る。
斎藤さんは元々、ジャズやブルースを歌っていた。それがサンバに魅了されて以来、ブラジル音楽街道をまっしぐら。日系人から個人レッスンを受けるなどポルトガル語の習得にも精を出した。初の自作CDのタイトルは『エストラーダ(道)』。ブラジルにほれた自分の歩みを振り返ったのか、そう名付けた。収録された六曲のうち、日本語で歌われているのは一曲のみだ。
「歌うだけでなく、踊るのも好きだった。でも、ジャズは四ビート。当然踊れません。そんなときにサンバと出会った。ブラジル音楽はダンスミュージックも豊富。すぐにのめり込んだ」
日本のサンバ・チーム「バルバロス」に参加。歌手兼ダンサーとして活躍するかたわら、東京にあるブラジル音楽専門のライブハウス「サッシペレレ」(四谷)、「プラッサ・オンゼ」(青山)などにレギュラー出演してきた。
ブラジルには九三年、カーニバルの期間をはさんで二カ月間滞在。サルバドール生まれのダンス音楽アシェと出会ったことで、さらにブラジルに傾倒。そこに住む人や文化にも関心を広げ、日本人とブラジル人の聴衆では歌を聴く態度が違う、という認識を得た。
「日本人はなんとなく雰囲気で感じるところが大きいが、ブラジルでは歌い手の個性を評価してくれる」
そんな思いが二度目の来伯につながっている。「とにかく自分の歌を聴いてもらいたい」と、八歳になる男児を実家に預けて単身ブラジルに。当初は現地のラジオでなんとか自分の歌を流せないものかとも考えたが、「こちらの音楽関係者からは早速、『いまは厳しいよ』と言われました。ブラジルの音楽家でも難しい状況とのこと」。そう話す。
帰国後は、新曲の録音が決まっている。作詞は自ら手掛け、一つは日本移民をテーマに据えた。「日いづる国の誇り高き開拓者」。この一語だけは必ず歌詞に盛り込むつもり、という。既に日本の古本屋で移民関係の本を入手するなど、資料収集にも余念がない。
「移住者の歴史には苦労や悲しみが強調される側面もありますが、わたしは移住者の『強さと明るさ』に魅了されているから、その辺を表現したい。生気とモラルを失っている日本へのメッセージとなれば」
メロディーは少しゆったりとしたサンバ調で、ドラマチックな展開の曲になる。歌の題名はサンパウロ市の日本人街にちなんで、「リベルダーデ(自由)」に決めている。