1月14日(火)
ハキリアリ(サウーヴァ)の研究者、奥野正樹さん(二四)が、日本ブラジル交流協会の第二十二期研修生として去年四月から来伯し、研究を進めている。ハキリアリのアッタ・セクスデンスという種を対象にしており、テーマは「女王アリの結婚飛行の時期」。アリの標本がブラジルで一番揃っているという動物学博物館に通ったり、ピラシカーバのサンパウロ大学(USP)農学部などで実験を行ったりしている。
ハキリアリは植物の葉を切り取って巣に運び、それを使って菌を培養することで知られている。食物は、培養した菌だけだ。女王アリは菌を口の中に蓄え、交尾のために巣から飛び立つ(これを結婚飛行という)。空中での交尾を終えて着陸すると、羽根を捨てて垂直に穴を掘り、菌の株を植えて培養する。女王が生んだ子供は菌を食べて育ち、新しい巣を作り始める。
「ブラジルではサウーヴァは大雨の次の晴れに結婚飛行すると言われているが、それは絶対ではないと思った」。そこで、結婚飛行の時期と湿度、温度の関係を検証しようとしている。飛行の時期を特定できたら、それに合わせて効率的な農薬散布ができるようになる。「今まで類似の論文を調べたが、まだ誰もやっていない」という。
そもそも日本にはハキリアリが生息していないため、研究者もごく少ない。一方ブラジルでは、農薬を使った駆除についての研究は進んでいるという。
富山大学の四年生の時に研修制度へ出願した。協会が課す「五十冊読書」などの事前研修をこなしながら卒業論文を執筆、大学院の試験にも見事合格して、今年三月に帰国した後は京都大学大学院農学研究科への進学が決定している。
去年の十二月には、来伯中だった作家の畑正憲さんに会う機会に恵まれた。「ムツゴロウさん」という愛称でも知られる「動物好きのおじさん」というイメージが、「体当たり式の学者」に変わった。「アリを研究するなら、アリをなめちゃいけない。リスペクトしなきゃ」などのアドバイスをもらったという。
身長百八十五センチ、体重七十八キロ、少林寺拳法三段。巨体を丸めて地面のアリを観察する姿は、どことなくユーモラスだ。
三月の帰国の前に、憧れの地、アマゾンへ旅行する。「昆虫、動物の写真を沢山撮ります」と楽しみな様子。ブラジルへは「研究費が降りたら、また来たい」と話していた。