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食の話題=サンパウロ市の「美しき時代」=仏料理文化は本場に匹敵

グルメクラブ

1月23日(金)

 むかし、「ベラ・エポック」とフランス語でいうにふさわしい「美しき時代」がサンパウロにあった。
 グローボで放映中のドラマ「ウン・ソー・コラソン」は、その頃を描いた話である。
 一九二二年の「セマーナ・デ・アルテ・モデルナ」(近代美術週間)の開催に至るまでの筋が、ひとつの見所だそうだ。
 音楽、建築、文学、絵画、彫刻と広域にわたる分野で、アカデミズムの旧態を打ち破ろうとする若きインテリ作家たちの言動は放埓でいて優雅―。画面でも往時の芸術運動の様子を十分にしのばれる。
 とりわけ、覚えていてよいのは、ベッチ・ゴフマン演じる画家アニータ・マルファッティの存在だろう。 ドイツで会得した表現主義色濃いその筆で帰国後、しばし捉えた対象が日本人だった。同週間にも「黄色い肌の男」「ある日本人」が出品されている。
 当時モデルニスタと呼ばれた彼らの後ろ盾となったのは、芸術愛好者のパトロンである。なかでも上院議員のジョゼ・デ・フレイタス・ヴァーレが有名だ。ドラマにも登場する。
 ドミンゴ・デ・モラエス街十番、その邸宅「ヴィラ・キリアル」は社交場であり、芸術サロンであった。ヨランダ・ペンチアードを始めとするドラマの主要人物の多くが通った。
 「パリを知るのにサンパウロを出る必要はなかった」。そういった人が当時いる。「ヴィラ・キリアル」の夜会に招待されるだけで十分であった、と。
 一九一五年七月に開かれた晩餐会の献立は、次のようなものである。
ザリガニのビスク、あるいはクリーム仕立てのスープ=ビスクは香野菜と甲殻類でダシを取ったスープのこと。
白身魚のベシャメル・ソース=ベシャメルはバターで小麦粉をとき、ホットミルクを足してかき混ぜて作るソース。
仔羊の骨付き背肉のステーキ。
七面鳥のトリュフ詰め合わせ。
バイーア風クリームデザート。
紅茶、カフェ、リキュール、葉巻。
ベイジョ・ダ・ダーマ一八六五=ポルトワイン。
シャトー・デュケム一八八八=仏ボルドーの貴腐白ワイン。
シャンベルタン一八七五=仏ブルゴーニュの赤ワイン。
 一方、招待状のデザインは花をあしらったアール・ヌーヴォー風とこちらも本場の流行をおさえている。
 今のサンパウロで往時の気分を味わえるレストランに、ラルゴ・ド・アロウシェ三四六のフランス料理店「La Casserole」(電話3331・6283)がある。創業は一九五四年で、サンパウロ四百年と一致する。
 偶然にも同年には、フランス人移民マウリッセ・プラスがアウグスタ街七二四に洋品店「プラス」(電話3257・9919)を開業。最新のパリ・モードを持ち込み話題となった。
 一九五四年といえば、二〇年代にモボ・モガで鳴らした人物もすでに壮年期。グローボのドラマも設定ではこの年に終わるが、巷間では新たなフランス・ブームの兆しを確認できる。