国外犯処罰を題材に日伯両国で物語が展開するミステリー小説「代理処罰」(光文社)で、光文文化財団主催の第17回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した市川智洋さん(53、千葉)=ペンネーム・嶋中潤=が、昨年末から1週間、当地を初訪問した。
代理処罰(国外犯処罰)とは外国で犯罪を犯し、逃亡してきた自国民や第三国人を自国の法に基づいて処罰する制度。同書は、ブラジルに逃亡した交通死亡事故容疑者を妻に持つ夫が、娘を誘拐され、「身代金を用意し、妻に届けさせろ」という条件を突きつけられたところから始まる。
そうした設定を取り入れた背景には、「05年10月に静岡県湖西市で自動車事故を起こした、藤本パトリシア被告が帰伯へ逃亡したことや、昨年大阪で起きた准看護師遺棄事件で、日系ブラジル人女性が中国に逃げた案件を知り、高い関心を持った」という。
「妻を捜しにブラジルに向かい、『なんとしても娘を取り戻さなければ』という強い家族愛を表現したかった」と狙いを語る。応募時の『カウントダウン168』(市川智洋著)が改題、改名され昨年2月に初刊された。
市川さんは12月22日から1月4日まで滞在しイグアス、リオで年越しを過ごした。日本移民上陸記念碑などサントスも訪れ、「小説に登場させたモンテ・セラートの丘に登ると、頂上の教会前から市街が一望され、ブラジルへ来たことを実感した」という。初来伯で当地の年越しを経験し、「新しい題材なども見つかれば」と、刺激を受けた様子で帰国した。
税別1500円。ニッケイ新聞社で発売中(50レアル、担当小倉まで)。限定10冊でなくなり次第終了。
■
1961年千葉県生まれ。東京工業大学大学院修了。リクルートグループを経て、宇宙関連企業で国際宇宙ステーション関連業務に従事。現在、宇宙関連団体に在籍中。99年の第3回同新人賞から応募し続け、最終候補に8度残り、『代理処罰』で初受賞した。