日本移民の高齢化が進み、次世代への日本文化継承が急務とされる昨今、ブログ子の愛好する将棋文化もまた消滅の危機に瀕していた。
「囲碁漫画の『ヒカルの碁』が翻訳出版され、囲碁人口が増えたように、将棋漫画が出版されれば将棋人口も増えるのではないだろうか…」と思いついたブログ子は、将棋文化普及の糸口を探しに、2001年の事業開始から約120タイトルの漫画を翻訳出版してきたJBC社(Japan Brazil Communication)を訪ねた。
取材に応じてくれたカシウス・メダワール編集長に、「将棋漫画を出版してくれますか?」と依頼する前に、今回はJBC社とブラジルのアニメ・漫画業界について簡単に説明しよう。
JBC社は1992年、在日ブラジル人向け週刊紙『ジョルナル・トゥード・ベン(Jornal Tudo Bem)』を発行する出版社として東京で設立されました。当時は日本へデカセギに行く日系ブラジル人の最盛期で、日本政府の発表では最大31万人以上(北海道旭川市が34万人超)が滞在していたといいます。
それから2年後の94年9月、ブラジルでは日本アニメブームの火付け役となる『星闘士星矢』の放送が開始されます。
当時のブラジルのテレビ番組は、子ども向け番組と大人向け番組に二極化されており、中間となる若年層を楽しませる番組が不足していました。
熱いストーリーと派手なアクション、過激な暴力表現とシリアス性を持つ『星闘士星矢』は若年層の需要に見事に応え、熱狂的なファンを生み出しました。
『星闘士星矢』以前にも手塚アニメや『宇宙戦艦ヤマト』などの日本アニメが放送されていましたが、手塚アニメは同時期に放送されていたアメリカのカトーゥーンアニメと同一視され、宇宙戦艦ヤマトも若者の心を掴むまではいきませんでした。
『星闘士星矢』が放送された当時を知る岡・アルナルド・正人さん(44、二世、劇場版『AKIRA』の伯語翻訳を担当した翻訳家)に話を聞くと、『一輝が氷河の胸を貫いた時の衝撃といったらもう…』とコメント。相当な衝撃だったようです。
『星闘士星矢』のヒットを皮切りに『ドラゴンボール』、『カードキャプターさくら』、『るろうに剣心』なども放送され、ブラジルに日本アニメブームが巻き起こります。全盛期にはブラジルの最大手テレビ局『グローボ』を含む4局が日本アニメを地上波放送しました。
日伯を股にかける出版社JBC社はこの流れに乗り、2001年に漫画の翻訳出版事業を始め、前述の『星闘士星矢』などアニメ化された漫画を中心に翻訳出版し、成功を収めます。
JBC社が翻訳した名作たち
それから月日が経ち現在、日本アニメが地上波で放送されることは無くなってしまいました。その背景には、おもちゃ会社がアニメ放送枠を買い取り、おもちゃの登場するアニメを放送するビジネス様式が定着したからといわれています。
地上波で日本アニメが放送されなくなり、日本アニメがブラジルから消え去ったかというとそうではありません。アニメ専門チャンネルの存在もありますが、なんといってもインターネットです。
日本では昨年、約200本ものアニメ作品が放送されましたが、人気作品は放送翌日にもインターネット上に違法アップロードされてしまいます。
そしてその直後には英、韓、中、西など各国語の字幕がついた改造版が出回ります。全てのアニメに伯語字幕がついたブラジル人が運営していると見られるサイトも存在します。
こうしたサイトの情報は、インターネット上で共有され、結果的に日本のアニメは世界中に影響力を持ちました。
当地のアニメファンに『どうやってアニメを見ているの?』と尋ねるとほとんどのブラジル人が『internet』と答えます。
なかには『日本のアニメをすぐに見られるのは良いんだけど、アニメ会社が儲からなくなったら、アニメが作られなくなってしまう…』と殊勝なことを言うブラジル人もいました。
90年代の日本アニメブーム時に学生時代(13~22歳)を過ごした世代も、いまでは社会を構成する中心世代(38~47歳)。JBC社の発行する漫画は1冊約13レアル(約650円)なので簡単に手が届きます。ネットを通じて若者世代のアニメファンも増加傾向にあり、漫画に対する需要も今しばらく増加していくと予想されます。
少々長くなりましたがブラジルのアニメ・漫画事情については以上です。本題の将棋漫画出版の可否については後編で。(石)
付録
JBCホームページ:http://www.editorajbc.com.br
JBC漫画ラインナップ:http://mangasjbc.uol.com.br
JBCフェイスブックページ:https://pt-br.facebook.com/jbcommunication