クリスチーナ大統領を告発した検事が遺体で発見されてから丸1カ月となる18日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、アウベルト・ニスマン氏追悼と汚職やインフレなどに抗議するためのデモ行進が行われ、雨の中にも関わらず40万人が参加した。
18Fと命名されたデモはニスマン氏の同僚だった検事や判事達が呼びかけたもので、議会から大統領官邸までを繋ぐ5月大通りは午後7時過ぎ(現地時間、ブラジリア時間では午後8時)には、傘をさした人などで身動きも出来ない状態となった。デモ行進は基本的に静寂の中で行われたが、時折、「正義」とか「アルゼンチン」「ニスマン氏を偲ぶ」といった言葉が聞かれた。
ニスマン氏が行った、大統領や外務大臣らが、死者85人が出たユダヤ人協会爆破事件に関与して国際手配されていたイラン人容疑者を処罰しない事を前提に、イラン政府と穀物や肉類の輸出と原油価格引き下げ交渉を行っていたとの告発も他の検事が継続。13日にはクリスチーナ大統領らが起訴された。
「静寂のデモだから政府の悪口は言わない。でも、汚職その他の誤った事が大手を振ってまかり通っている事は皆が苦々しく思っているわ」と言う62歳の主婦は、30ペソで雨合羽を購入後、「野党だって解決策は示してくれないけどね」と言い足した。
参加者の中には、「私は死ぬまでクリスチーナ派よ。彼女のおかげで生活が良くなった。でも、こんな機会だから少し稼がせてもらおうと思って」という女性もいた。彼女は飲み物を売る屋台を出したが、悪天候のため、店を閉じ、デモ隊に混じったという。
検察はニスマン氏は自殺と発表したが、担当した検察官は大統領支持派で、現場検証にあたった係官達もニスマン家のトイレやコーヒーメーカーを勝手に使うなど、あるまじき行為が見られたとの証言もある。
また、先日来、「弾は11センチ程度離れた所から発射された」と言うのを聞いたとか、「トイレの床が血で汚れ、クローゼットの前にも血の付いた靴で歩いた跡があった」という新証言が出て来たと報じられ、本当に自殺だったのかと疑う声も強まっている。
ニスマン氏追悼のデモに対する民衆の関心をそらすため、クリスチーナ大統領は同日午後、アトゥシャⅡと呼ばれていた原子力発電所に前任大統領で夫の故ネストル・キルチネル氏の名前に改名する事を発表した。
同発電所は同国の電力需要の5%にあたる745メガワットの発電能力を持っているが、クリスチーナ大統領はブラジルの電力事情を例に挙げ、「隣のブラジルは水力発電を頼りにしているから気候変動が起きて大変な目にあっている。水力発電と原子力発電は補い合うものよ」とアピール。
5分後には、「アルゼンチン人の家庭ではブラジル人の家庭の4倍の電力を使っている。これは電気製品も豊富にいきわたっている証拠」とした上で、「うちにはエアコンが4台ある」と叫んだ支持者に「温度はいつも24度に設定しておいてね。電力消費も国民の義務よ」と冗談を言う姿も見られた。(19日付エスタード紙などより)