連邦警察でコンゴーニャス空港署の署長まで務めた池田マリオ清高さん(68、三世、パラナ州アサイ出身)は、定年退職後に移民史研究に目覚め、笠戸丸移民だった祖父母の池田栄太郎・ミヤノ夫妻への興味から水野龍の調査を始め、現在ではフリージャーナリストの外山脩さんと協力し合いながら勝ち負け抗争について突っ込んだ文献調査をし、「いずれしっかりまとめた本を出版したい」と意気込んでいる。
池田さんはサンパウロ市北部にある自宅で、祖父母(共に愛媛県伊予市出身)の思い出をこう語った。「20年前、祖父のパスポートを手に訪日し、町役場で『親戚に逢いたい』と頼んだら、30分で迎えに来てくれて驚いた。その家の仏壇の後ろに、祖父が戦後送った家族の写真が保存されてあり、小さい頃の私も写っていたので2度ビックリ。祖父が育った家もまだ残っていた」。
居間のテーブルには移民史資料がびっしりと山積みにされており、車椅子生活をする中で、じっくりと研究に浸っている様子が伺われた。
水野龍の息子・龍三郎さんと親交が深く、「祖父は水野のことをよく言っていなかったが、色々と調べた結果、決して水野は移民を騙していた訳ではないと確信するに至った」と強調した。笠戸丸移民は神戸港で持ち金を移民会社に預け、サントス港で約束通りに返されなかった件だ。水野は日本国外務省への供託金が不足して許可がもらえず出港が遅れてしまい、移民から預かった金をそれに流用した。
「水野は、到着してからサンパウロ州政府の渡航費補助を受け取り、それで預かり金を返還する予定だったが、出港が遅れたためにサンパウロ州政府が支払わなかった。だから結果的に踏み倒した形になった。水野は懸命に工面してお金を用意できた時には、移民の多くは夜逃げして行き先不明で返せなかった。でも居場所が分かった移民にはキチンと返済している」と〃移民の祖〃のノドに刺さった刺のようなこの問題を釈明した。
さらにクリチーバ在住の龍三郎さんに関しても「水野は皇居の傍にあったお屋敷を売り払ってまで移民事業を無理矢理押し通した男。その息子は今、屋台でヤキソバを売りながら実に質素な家で生活をしている。もし水野が移民を騙して大金をせしめていたら、息子がそんな生活をしている訳がない」と確信を込めた口調で語った。
池田さん宅では近年6月に、個人的な〃移民祭〃を実施している。昨年は笠戸丸時代のアフォンソ・ペナ大統領の孫、〃移民の実験台〃鈴木貞次郎の孫、福嶌教輝在聖総領事も参加した。
「勝ち負け抗争について調査中。いずれ、日本移民をテロリストのように描いたフェルナンド・モライスの本『コラソンイス・スージョス(汚れた心)』を糾すために、移民史をパトリオチズム(愛国心)という視点から読み解いた『コラソンイス・リンポス(清浄な心)』を出版したい」と笑った。
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