ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 反ジウマ・デモで歌われた曲は?=ブラジルのプロテスト・ソング

反ジウマ・デモで歌われた曲は?=ブラジルのプロテスト・ソング

 15日は全国約160都市でジウマ大統領の辞任や罷免を求めるデモが起きた。汚職問題や景気後退に憤るデモ参加者は、サンパウロ市だけで20万人とも100万人とも言われる状況だが、そのデモの最中、ブラジルを代表するプロテスト・ソングが歌われた。
 サンバやボサノバのイメージが国際的に強いブラジルだが、16日付エスタード紙によると、今回のサンパウロのデモで歌われたのはロック、しかも現在のものではなく、1980年代のバンドブームの頃に流行った楽曲だったという。
 そのひとつは、1990年にエイズで他界した伝説の歌手、カズーサが88年に発表した「ブラジル」。この曲で彼は「やあブラジル、君の仕事は何なんだい? 僕は誰がお金を払ったのか知りたいんだ」との一説で有名だが、これは有力政治家の汚職を歌った曲。奇しくも今回のデモはその対象の一つに、国内最大企業のペトロブラスで連立与党3党が絡んだ大型贈収賄工作がある。同公社の損害総額は880億レアルとも言われ、その裁判の行方が注目されている。
 もうひとつの人気曲は80年代最大の人気バンド、レジオン・ウルバーナが87年に発表した「キ・パイス・エ・エッセ」。「ファヴェーラでも上院でも、誰も憲法を守ろうとしない。だが、人々はブラジルの未来を信じている。この国はどうなっているんだ」と歌われるこの曲は、ブラジルでロック系の大きなイベントがある際に頻繁に歌われる1曲にもなっている。
 この2曲は、軍による検閲の厳しかった軍政時代の曲ではなく、軍政が終わっても、当時のジョゼ・サルネイ大統領の失政で社会が不安定でハイパー・インフレを記録していた時代の曲だ。
 また、今回のデモでは、軍政時代の70年代の有名なプロテスト・ソング、シコ・ブアルキの「カーリセ」も歌われたが、これは通常とは違う意味で歌われた。
 この曲は、ワイングラスを意味する「カーリセ」という単語と「だまれ」を意味する「カーリ・セ」をかけた曲で「父さん、そのカーリセをどけてくれる?」と歌うことで、「検閲はやめてくれ」という意味で歌われていた。
 だが今回のデモに参加したある女性は、「カーリセ・シコ(シコ、だまれ)」とこの曲を歌った。それはシコがジウマ大統領と、与党の労働者党(PT)の熱心な支持者で、実妹が同政権で文化大臣までつとめていたいきさつがあるためだ。
 ただ、歌われたプロテスト・ソングはいずれも古い曲で、最近のものがなかった。これはジウマ政権の直前のルーラ政権の時代にブラジルの経済力が一気に向上し、飽食になったことで、国としてのハングリー精神を失っていたということだろうか。今現在のブラジルの流行音楽はセルタネージャやファンキだが、これを機会にこうした音楽から新しいプロテスト・ソングは果たして生まれるか。(16日付エスタード紙より)