医療法人社団「慈誠会」傘下の前野病院で在宅部門所長をつとめる村尾和俊さんが、28日にサンパウロ市援協で講演を行う(6面詳報)。彼の目的は、優れた日本式介護技術をブラジルに伝える可能性を探ること▼介護技術から食品、福祉機器にいたるまで、村尾さんはあらゆる面でのノウハウ提供を惜しまないという。講演ももちろん無償。そこまで日系社会への支援に身を砕く背景には、複雑な日本の介護業界事情があるようだ▼日本では2000年4月、介護保険法が施行された。政府の狙いは、要介護者が所得に関わらず介護サービスを受けられるよう、社会全体で支えること。しかし、利用者の負担がわずか1割で手軽に利用する高齢者が増える一方、行政によるサービス価格は一定のため、雇用者がスキルアップしても収益は増えないという矛盾が生じた。その結果、事業主体は人件費の安い人材を雇用するようになった▼介護の質が年々低下する現状を憂えた村尾さんは、「優れた商材サービス」と自負する日本式介護技術を海外に伝え残すことを決意。日系社会があり、情報インフラも整うサンパウロ市を「確実に技術を残せる希望の土地」と考え、「かつて新天地を求め、この地に来た一世の方々と同じ心境」でやってくるとか▼当地では、人手不足の日本介護業界に日系人をと、日系団体による介護講習が始まっている。今回の来伯は、それに連動する絶好の働きかけだ。超高齢化社会日本の技術を後ろ盾に、社交的でサービス精神旺盛な日系社会から福祉のプロを量産すれば、当地の高齢者に恩恵があるばかりか、訪日する若者に雇用与えることにもなる。「福祉の専門家たれ」はコロニアへの天啓かも。(阿)