8日午後2時、サンパウロ市西部のニコラス・アラヨン競技場にはパラパラとファンが集まっていた。
質素なつくりのサッカー場に集まったファン達はビールを飲んだり、おしゃべりしたりしながら、尊敬を込めて〃レジスタンスのクラシコ〃と呼ばれる対決をじっくり見つめていた。
平日午後3時のサンパウロ州選手権3部にもかかわらず、645人の有料入場者を集めたのは、ジュヴェントゥスとナシオナルの対戦〃ジュヴェ・ナル〃だった。
「これはすっかり産業化されちまった現代サッカーの流れに逆らう、レジスタンス(抵抗者)同士の一戦さ。今じゃチーム愛さえも金次第だが、ナシオナルとジュヴェントゥスはそんな流れにはなびかない。有名選手を引っ張ってくる金などないが、ユニホームに誇りをもって戦うんだ」―。そう語るのはジュヴェントスファンのルーカス・カストロさん(25)だ。製造業の仕事を休んでまで、彼自身初の〃ジュヴェ・ナル〃を見るために駆けつけた。隣では同年代の友人が、同じようにジュヴェントゥスに声援を送っている。
彼らをここまでさせるには二つの理由があった。ジュヴェントゥスはサンパウロ州選手権3部を勝ち点35で首位を走っていた。そしてなによりこれは、7年ぶりの〃ジュヴェ・ナル〃だ。サンパウロ市にはコリンチャンス、パルメイラス、サンパウロFCなどサンパウロ州、ブラジル、南米大陸さえも幾度も制したビッグクラブがあるが、スモールクラブのナシオナルやジュヴェントゥスも、サンパウロサッカー界の歴史の一翼を担ってきた。両者とも1941年のパウリスタ・サッカー連盟設立に関わっている。
「工場労働者のジュヴェントゥス、鉄道技師のナシオナル。どっちもサンパウロ市の発展に尽くしてきた労働者階級の代表さ。ジュヴェントゥスはモッカ地区、ナシオナルはバーラ・フンダ地区と、地域にも根ざしている」そう語るダニーロ・ジアスさん(24)も、同じく製造業だ。
1年での2部返り咲きを視界に入れるジュヴェンティーノとは対照的に、ナシオナルのファンは4部降格に怯えている。
しかしファンはチームが逆境の時こそより力強く応援する。
「困難だらけのチームだけど、そのことが俺達を一層熱くさせるんだ。自分の子供みたいな選手達が必死に走る姿を見ているうちに自分が戦っている気になるんだよ」と言う年金生活者のペドロ・ゴンサウベスさん(83)は、ナシオナルの試合を何試合見たかなどとうに忘れた。以前はコリンチャンスファンだったが、〃ナッサ〃(ナシオナルの愛称)に心奪われて以来、「コリンチアーノであることを辞めた」と打ち明けた。
ナシオナルのファンは、ジュヴェントゥスとの違いはモチベーションにあるという。ジュヴェントゥスは優勝歴もありファンも多い、選手達の月給は全員合わせて18万レアル。一方、昨年まで5年間もサンパウロ州4部止まりのナシオナルは、選手全員の月給も3万レアルだ。
試合は後半、FWジョルジェ・マウアーの挙げた2ゴールで、ナシオナルが溜飲を下げた。(9日伯字各紙より)
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