大学時代は、学校帰りに古本屋に立ち寄るのが日課だった。古びた紙特有の匂いに浸りながら、無愛想な店主とわずかな客のいる閑散とした店内で、宝の山をあさる。至福のひと時だ▼そんな〃アナログ世代〃は、最近出回りだした電子書籍だと、どうも読んだ気がしない。電子書籍はネットから内容をダウンロードし、スマートフォンなどで読むデジタル本のこと。本の置き場に困らないし、家にいながらにして本を探せるので便利である。が、どうも物理的に本に触れてページを繰る行為が伴わないと気分が盛り上がらない▼電子書籍が伸び悩むのは、そんな旧式の紙の本を好む人々が、まだまだ多いからだろう。日本育ちの若者ですらそうなのだから、コロニアではなおさらだ▼1月ほど前に編集部内を大掃除して余剰本の販売コーナーを作ったら思いのほか好評で、日語書籍の需要の高さを実感した。「家にあっても子どもは日本語の本を読まないから」と、わざわざ本を持ってきてくれる人も出てきて、いつの間にか常設コーナーになりつつある▼最初の頃、歌人の小野寺郁子さんが訪れ、「イベントでは人が多くて疲れてしまう。ゆっくり見られるのでありがたい」と喜んで買って帰られた。古本市やバザーなど一日限りの販売はあるが、残念ながら、今では〃常設〃の古本屋はなくなってしまった▼当地でも、貴重な日語古本がもっとリサイクル(循環)されないとモッタイナイ―との思いもある。規模はまだ小さいが、買取りも始めて徐々に充実させるつもりなので、家に眠っている本などがあれば、ぜひ編集部までお持ち頂きたい。ささやかながら一世の娯楽の一助になれば幸いだ。(阿)