ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(22)=雌馬狩り=<3>=「無茶苦茶にいい気分さ!」

ガウショ物語=(22)=雌馬狩り=<3>=「無茶苦茶にいい気分さ!」

 そこで男たちは群を両脇から押していった。本当の楽しみはこれからなんだ! 中でも足の速い馬を三頭、四頭、五頭も一まとめに駆り立てる、そして休む間も与えずに六レグアも一〇レグアも、一二レグアも走り続けさせる……そんな後でも、わし等はまだまだ元気いっぱいだった!……
 無茶苦茶にいい気分さ! マテを飲み、雌馬どもを走らせる、これに代わるガウショの楽しみなんて他にはないね!
 お前さん! あの帯のような流れは乱れることなく続いて、それどころか、雌馬どもを前や横から追い立てている連中も、群れと一緒になって駆け、はては群れに飛び込んで見分けもつかない有様だ。最後尾のほうには、数え切れないほどの疲れて弱った馬や若駒が取り残されていった。倒れたり、骨が折れたり、中には通り過ぎていく大群の蹄に踏み倒され、踏み殺された馬も少なくなかった。
 時には直進したりあるいは大きく迂回したりして、全力で走り続ける群には、小川も湿地帯もおかまいなし、蟻塚も蟹の穴も野鼠の隠れ家も踏み潰され、雑草や潅木は踏み倒されて地に伏し、アザミは踏みつけられ、そこここに群れ咲くクローバーは蹴散らされた。そりゃもう結構な見ものだった!
 男たちが乗る馬は動きも軽やかに、轡を高く上げて走った。放たれるいくつものボーラは空を切って飛び交った……それは三つ組みの玉を狙い定めた馬の肩甲骨にぶっつけるためだから、馬はたちまち縄に絡まれて転倒した。
 牧夫はすぐ馬から降りて、リガーで締め上げ、ボーラをはずすと、もう次の獲物を求めて群を追っていった。
 これはただ楽しむためにやっている場合の話だ。
 みんなでやって、一番面白いのはボーラで倒した馬の耳を切ることだ。それは手早くやる。耳の付け根のところを後ろからナイフでサッと切ると、耳は前に、目の上にかぶさるように倒れる。流れる血もこちらには都合がいい。鬣が血でべっとりとなると、暴れものの若駒で蹴りまくっていたやつだって、たちまち大人しくなっちまうんだ。
 最後に一掃してしまうときはこうだ。雌馬の群れをどこでもいいから狭い土地に追い込む、例えば小川のある深いくぼ地だとか、谷あい、沼地、排水溝なんかだ。
 そこに馬ども全部を追い込んで、互いに踏みつけあったり、終いには皆殺しにするためだ。走り込んできた勢いのまま、次々にはまり込んで重なり合い、押しつぶされて死んでしまう。後から後からと、慌てふためいて続いてくるやつらにぶつかられ、押されて、引き返すことはできず、持って生まれた逞しい力をどうすることもできずに……。
 群れから逸れて逃げた奴は投げ縄とボーラで捕らえて、すぐに首を切る。
 こんな風にして、ジョルドン少佐の牧場でわし等は六千頭あまりの駄馬を始末した。そして、引き上げるときには、牧夫の一人ひとりが手に入れた新しい馬を数頭引き連れて帰路についたのだった。
 今の世で……どこであんな真似ができるかね?
 もちろん、昔よりいい事はいっぱいある。それは確かだがね……だが、マテを飲んで雌馬どもを追いかける、あの楽しみに勝ることなどありゃしないさ!
 ちぇっ、つまんねぇ!……わかるかね、お前さん……わしぁまったく泣きたくなるよ!……
ああ!月日の経つのは!……(雌馬狩り、終わり)