今から紹介する北原昭さんは、サンミゲール・アルカンジョ市のコロニア・ピニャール(通称福井村として知られる)植民地で活躍している一農人である。彼は徳島出身で力行会の戦後移住者であるが、新しい村造りを目指す福井村に共鳴し、同時にこの地が果樹栽培の適地と思い入植した。
彼は幾種かの果樹を試み、その結果、富有柿とウーバを主作とし本格的栽培にかかった。農高出身の彼は研究熱心で、栽培技術や市場の動きなど注意深く見ていた。すると、ウーバの出荷を少し遅らせると利益率が大きい事が分かった。彼は決断し、生り盛りの柿の生産を中止した。しかしウーバの肥培管理は難しいので、家族を中心とし、栽培本数も二百本程に限定した。
さて、本題の「奇特な農家」の話である。北原さん夫婦は放棄した柿が勿体無いという事で、友人知人を招いて自由に採り食べ一日を楽しんでもらったらと考え、毎年3月中下旬には握り拳程の半熟の柿が生るので、その時季を予定し友人を招いた。
私も毎年招いていただき、柿を捥ぎ食べ、昼食しながら楽しい歓談のひと時を過ごし、帰りは満杯の柿で車が動くかな―と、お礼とおいとまの挨拶をし帰途につくのであった。
この様な柿狩りが、およそ20年も続いている。その間、随分多くの人が招かれ、私同様楽しい一日を過ごし、帰りの車中はお土産の柿で満杯。この柿をどこに贈ろうかな…と、胸算用しながら帰ったものだ。
ところが、今まで精根込めてウーバ・ルビーの生産に励んだ北原さんだが、そのウーバの生産も中止したのだ。理由は、夫婦とも自分の思う様やるだけやったという自負もあるが、後継者もいないし…喜寿ともなれば体力にも限度があるので、余生は好きなことをして楽しい日々を送りたいとの事。
ここで北原さんは、柿と同様にウーバ狩りを考え友人知人を招いた。私もまた招いていただき、当日は40kgと大量のお土産の箱詰めまで手伝っていただいた。今年のウーバは艶よし味よしの大粒で、少し歯応えがあり最高美味であった。こんな美味しいウーバを家族だけでこっそり食べるわけにはいかないと、息子や友人知人など10人余りに贈った。
話は後戻りするが、ウーバ狩り当日、昼食をしながら歓談していると、北原さん夫婦が「皆さんがこの様に喜んでくれるなら来年も是非来て下さい」と仰った。私は即座に「北原さんに招かれる人は至れり尽くせりお土産までいただきて満足ですが、こんなに立派で美味しいウーバを作るには経費が随分かかると思います。どうでしょう、北原さんに招かれた人や柿狩りやウーバ狩りを希望する人で経費お負担方法を検討したらどうですか」と言った。
北原さんの意見説明もいろいろあり、結論としてメンバー会員制の果物狩り、利益を目的としない観光農園などの意見が出た。あとは省略しますが、ぷらっさ愛読者の中で何か実行しやすい名案またはこの主旨に添い参加を希望される方は北原さんにご一報下されば幸いです。