セーラドスクリスタイス 桶口玄海児
母作るボリンニャデシューヴァ夏休み
雨降れば人恋しがる山家猫
マンゴー樹をマリタカの群れ襲いたる
ブラジルの萩水昌村の霧宿し
インジオの少年を呼びラン捕りに(ランは蝦蟇)
北海道・旭川市 両瀬 辰江
花の芽を子供待つごと眺めおり
早春の日差しの窓に鉢移す
ものの芽を散歩の道で楽しめり
朝寝して心ゆくまで手足伸す
メモ書を忘れてスーパー山笑う
【今週も忘れずにご投句ありがとう。ブラジルを忘れて居られない証拠です。大統領罷免のデモが起ってサンパウロは、一日として静かな日はない様な思いで居ります。あなたが居られたサンパウロではなくなりました。私達日本人は静かに暮しては居りますが。それに引きかえ日本は外国のお客さんブームになって居るそうですが。】
ボツポランガ 青木 駿浪
新涼や光りと影が交錯す
狭庭にも秋の気配の彩見せて
山家今墨絵の如く銀河濃し
気嫌良き病妻の顔虫浄土
プ・プルデンテ 野村いさを
枝の日の枝持つ人の列につく
農廃れ愚痴も細々秋旱
風鈴のかそけき音色外厨
古寺巡るバスで飛鳥の柿喰ぶる
カンポスドジョルドン 鈴木 静林
残暑こもる草生い茂る廃路線
散るパイナ赤子あやして野良昼餉
朝散歩どこでついたか草じらみ
クアレズマや山は車日霧や雨
サンジョゼドスカンポス 大月 春水
時季外れの風邪に咳き込むバスの中
旅の秋うき雲下に三時間
逝きし人を送る命日秋時雨
秋雨が降って東屋に一と休み
サンパウロ 湯田南山子
通せんぼして山萩の乱れかな
朝顔の種を採ってと頼まるる
山萩を蹴散らして行く放れ馬
茸狩り一本見付けて万歳す
ソロカバ 住谷ひさお
夜顔や静かな雨に更けて行く
庭芝に月草の花二輪咲く
玄圃梨色づきて風さわやかな
友旅へ七十年ぶり桜見に
サンパウロ 武藤 栄
村あげて一日楽しい運動会
夫婦して楽しむ釣場宵闇ぬ
日本酒で杯上げ祝ふ親日家
最高とラゴスタ料理海の幸
ブラジリア 堀 昌
菜の葉汁飲んで近頃医者いらず
ピッキーめし料理じまんの娘と住みて
ピッキー酒今さら下戸とは云えず
日本語の話は出来ずピッキーめし
グアルーリョス 永田美知子
リベイロンの句友の赤心猩々花
リベイロンのもてなし厚き虚子忌かな
嫁取りに引かれて走る運動会
弓場野球見守りて来パイネイラ
サンパウロ 寺田 雪恵
アンテナで恋を探すやかたつむり
尺取虫三つ葉の色のまま歩む
子が病んで心から笑えぬ日々にあり
岩清水増し汲み易き秋の水
エンブガス 島村千世子
日本のすだれは古るび移民老う
すだれから日本の風が少し吹き
幸せや里の名曲聞きて老い
炭だわら叩きはらまき土佐と知れ
サンパウロ 武田 知子
生き残ることも多難と秋思かな
使わずに四散の調度秋思かな
残る蚊やデング予防の薬飲み
白妙にねり絹の幕今朝の秋
サンパウロ 児玉 和代
黒を白と云えず半生四月馬鹿
新涼やとくとく流る五体の血
鍵束の小鈴かすかに鳴る夜寒む
夕冷えの灯影湯呑みの飲み残り
風もなき空のどこかに秋立ちぬ
サンパウロ 西谷 律子
クワレズマ大阪橋にすだれ咲く
露の世の出会ひ別れを重ね生く
ビルの間をわけて登りぬ十三夜
たおやかにコスモス風に逆らわず
残された人の追憶鰯雲
サンパウロ 西山ひろ子
薄紅葉して南天の葉先きかな
母の日や母在りし日の母を恋ふ
爽やかな風に心を解き放す
新聞の夜露をまとふ朝かな
アンゼリカ匂える部屋に疲れけり
サンパウロ 新井 知里
五色の薔薇心豊かな句座の席
ベランダに芭蕉の愛でしすみれ草
シクラメン恋には遠き齢となり
大木にすがす春蘭のびやかに
サンパウロ 竹田 照子
爽やかに卆寿の吾も宴に酔ふ
タイパスの山眺めつつ食ぶ御馳走
すがすがし空に一とはけ秋の雲
海の蟹曽孫好みて食ぶ今宵
サンパウロ 原 はる江
中庭の隅よりかなかな鳴く夕べ
米寿まで生きて倖せ秋の蘭
弟妹等に祝され感激秋の宴
よろこびを祝して贈らるシクラメン
サンパウロ 三宅 珠美
蘭の鉢今日は私へプレゼンテ
口にするすべてが美味し食の秋
道の辺の野菊一と枝手折り来し
濃淡の紫ゆかし秋桜
サンパウロ 玉田千代美
散り急ぐ物の哀れや秋時雨
山荘の木々の香おりや秋の宴
俎の魚にひとかけ秋の水
せせらぎの水底にしずむ落葉かな
サンパウロ 山田かおる
秋晴れにめでたき友のダイヤ婚
小鳥鳴く荘で句友の米寿の宴
山荘で八重のコスモスの種拾ふ
孫誕生秋空遠きオーストラリアで
サンパウロ 平間 浩二
秋晴に歌って寿ぐ米寿かな
マラクジャのアーチ潜りて米寿祝ぐ
米寿祝ぐ一日和みの秋の荘
束の間の真紅に燃ゆる秋夕焼
アチバイア 東 抱水
釣宿の女房はインジア土人の日
土人の日売り居るインジオの手芸品
けらつつき原林残る耕地中
きつつきの谺返しに雌を呼ぶ
アチバイア 吉田 繁
竹植えて早五十年竹の春
新移民土間のこおろぎ泣いて聞く
釣った夢逃がした夢や四月馬鹿
鳥が播きしゴヤバ木たわわ実をつけて
アチバイア 宮原 育子
遠くから匂ふゴヤーバ売場かな
鍋赤く染めて完成ゴヤバーダ
放牧の牛の大空鳥渡る
ちちろ鳴くコロニア話聞く夜かな
アチバイア 沢近 愛子
椰子の葉の木もれ日やさし出湯の宿
移民妻温泉の街に来て至福なる
竹の春風さらさらと吹き抜けて
竹の春竹林育ち絵となりぬ
アチバイア 菊池芙佐枝
温泉ですべてを忘れ秋うらら
食の秋玄米好きな孫等来て
涙するアンネの日記夜長更け
しその実の香り楽しみ里想ふ
マイリポラン 池田 洋子
孫のうそ気付かぬふりの四月馬鹿
秋雨やまだ来ぬ人を待ちわびて
雨激し夫を気づかふ竹の春
鶴を折る手先にやさし秋の風
リベイロンピーレス 中馬 淳一
娘が作るゴヤバーダてふ駄菓子かな
仏壇にゴヤバの駄菓子お供えす
恋人にかつがれとんまの四月馬鹿
濁流に家を流して雨季上る
タイパス 桧垣 広子
あり余る黒髪背ナに洗ひ干す
秋雨のポソポソと降る道光る
山伐って大豆植えると云う男
秋灯下日本の便り廻し読む
サンパウロ 佐古田町子
かすみ草ミモーザと活け客を待つ
黄金藤目当でおいでと友に告げ
転々と子等の家渡り老うらら
感銘も哀傷も捨て老の秋
イタチーバ 森石 茂行
四月馬鹿嘘とは知らず駅へ行き
独裁者何処にありても滅び行く
日盛りに咽を潤ほすソルベッテ
ジャッカー切り強き芳香室に満つ
マナウス 東 比呂
島渡し左右に月を置きかえし
月明り頼りに大河渡る舟
渡り鳥見送る日暮れ浮き波止場
渡り鳥大河一と蹴りして翔てり
雛壇のなけれど孫に人形買う
マナウス 宿利 嵐舟
満点の星を従え月天心
月光を浴びて寄せ来る金の波
歩をゆるめつつ月光の中にあり
思ひあふれ丘に登れば昼の月
風絶えて鏡の池に夜半の月
マナウス 松田 丞壱
胡椒炒る大鍋熱し玉の汗
とろろ汁喉越し易き夕餉どき
パクー釣り今が旬と腕自慢
渡り鳥空覆ふ如飛び去りし
マナウス 服部タネ女
月に泣き月に癒やされ移民妻
鳥渡るアマゾン育ちの子鳥つれ
童歌ハミングしつつ雛飾る
心こめ祈りし紙雛内裏さま
マナウス 山口 くに
月の秋セルタネージャの恋の唄
渡り鳥電線たわめて楽譜めく
半世紀移住荷の雛も共に老い
胡椒摘む袋も野良着も砂糖袋
マナウス 岩本 和子
三日月の落っこちさうな今宵かな
ぽっかりと一人ぼっちの夜半の月
ふるさとも遠くになりて渡り鳥
あたふたと胡椒取り込む通り雨
マナウス 橋本美代子
月ふたつ河に浮く月昇る月
どこまでも月追いかけて夜航船
海峡の波間を低く鳥渡る
胡椒摘む今年の相場を占いつ
マナウス 丸岡すみ子
汚れなき月に快癒の願かける
思い出す実家に眠る雛の顔
子育てをしつつ夜学へ娘は向かう
ステーキに挽きたて胡椒香り立つ
マナウス 渋谷 稚
夕陽背に樹海に消え行く渡り鳥
夜学の子肩をすくめて帰路につき
白き手の指先真黒胡椒摘み
胡椒干す気になる空に黒い雲
マナウス 吉野 君子
アマゾンも故郷も同じ月冴える
古稀すぎて尚祖父よりの雛飾る
胡椒畑初期の移民の汗染みて
季を知りてアマゾン樹海を鳥渡る
パリンチンス 戸口 久子
吠え猿の声の響きて峰の月
移民地の椰子の小屋にも秋の月
トメアスの胡椒黄金期一九五四年秋
終戦月七十年の月日よむ