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灯台もと暗し

 「姪っ子がブラジルに初めて来るので会ってやってほしい」と知人に頼まれた。写真をやっていて日系社会に興味があるという。何を話せるか分からないが…と引き受けた。実際に会ってみると、漠然と日系社会を見てみたい―といった様子。焦点が絞られていれば、具体的な話にもなるのだが▼話はあちこちへ飛び、結局彼女自身の話に落ち着いたのだが、聞きながらこちらが身を乗り出した。自分の亡くなった母親が某移住地で幼少期を過ごし、ブラジル各地を転々としたことを記した日記を読んだことが今回の訪問を思い立ったきっかけだという。しかも叔父や祖母もまだブラジルに住んでおり、祖母は満州帰り。九州で炭鉱離職者となり、ブラジルへ移住している▼上野英信の本を勧めつつ、まずは自分の家族の来歴を調べたらいいのではないか―と初めて助言らしいことがいえた。移民船が神戸から出たことも知らない彼女も、実は自分の家族自体が日系社会を知る最高の手がかりだということに思いが至り叔父や祖母の住む町へと帰っていった。不思議なもので、探しているものは近くにあったりするのだ▼ふと親しくしていた戦後移民のことを思い出した。博学で学ぶことも多く自宅に足しげく通っていた。孫とも言葉を交わすようになったのだが、日本語が上手い。しかし独学で勉強しており照れもあったのだろう、祖父とポ語で会話していたので「なんと勿体無い」と日本語で話すことを勧めた。「最後に孫と日本語で語り合えた」と、病床で目を潤ませていたことが懐かしい。彼女も祖母から何かをつかみ、また戻ってくるだろうか。    (剛)