最近出版された(2015)ウルグァイのアンドレス・ダンサとエルネスト・トゥルボヴィツ両新聞記者の共著に成る『権力に挑む一匹の黒羊』(西語原題〃La Oveja Negra al Poder〃の仮訳)によれば、2012年にジウマ大統領は、ウルグァイのホセ・ムヒカ前大統領の一特使を極秘裡にブラジリアで引見し、いかにしてパラグァイのメルコスール正会員国資格を剥奪するか術策をめぐらし、かつ納得させたかの秘話を暴露した。
これに関連してブラジルの新聞も、ジウマ大統領は2012年にどの様にパラグァイに制裁を加えるべきかの策を練ったか、同著書一部の関連記述を転載した。
同書は、時のパ国大統領フェルナンド・ルーゴを行政不振の廉で国会が弾劾裁判に付し、2012年6月22日に電撃的に更迭した実情検証のためにウルグァイ政府がアスンシォンへ密使を派遣すべく便宜を計り、ジウマはモンテビデオへ特別機を差し回したと書いている。
明かされるパ国資格停止の真相
なお、ルーゴ大統領をパラグァイ国会が弾劾罷免した報復に、パ国正会員の資格停止をメルコスール首脳会議が可決する以前にウルグァイのムヒカ大統領に対し、ジウマの片腕で、黒幕の実力者マルコ・アウレリオ・ガルシア特別顧問からの電話があった事も明るみに出た。
ジウマ大統領はプラナルト宮殿での謁見で、ウルグァイ特使にブラジル、ベネズエラ及びキューバの各諜報機関が収集した、いわゆるジウマや亜国のクリスティーナが「マフィア勢力の対ルーゴ国会クーデター」と断じたパラグァイ政変に関する機密の写真、録音記録や関係資料を披瀝した。
件の新著が述べる処によると、プラナルト宮殿の大統領執務室で待機していたジウマは、ウルグァイの特使が到着すると、儀礼的な挨拶もなく、余り時間の余裕がない忙しいジウマは早速本題に入ったが、席上急ぎノートを取り始めた特使を、「ここでは一切メモは取らず、なおレコーダーも〃オフレコ〃に願う」と制し、特使のノートを破り、「今日の我々の会談はなかった事にして貰いたい」と、ジウマは注意したと言う。
最後にジウマが云った事は、「ブラジルはクーデター後の今のパラグァイをメルコスール外に追う事を必要としている。そして同国の新体制政権の総選挙による選出を急がねばならない」と言う本音であった。
パ国いぬ間にベネズエラ正会員に
冒頭で触れた本書の共著者アンドレス・ダンサとエルネスト・トゥルボヴィツ両氏は何れもモンテビデオ市の週間誌「Busqueda」(検索)に属するジャーナリストで、ア市ABC紙の取材に対し、「今回出版されたこの本の内容は絶対に我々は責任を持つ記述である」と表明した。
そして、そのネタの出典は敢えて明かす事は差し控えたいとしたが、ブラジリアで行われたジウマ大統領とウ国の前ドン・ぺぺ・ムヒカ大統領派遣の特使が密会した経緯や様子は事実と違いはないものであると証言した。
かくして、任期余すところ1年2カ月にして失脚したルーゴの後任に、憲法の規定にもとづき副大統領フェデリコ・フランコが昇格し、同日(6月22日夜)正式にパラグァイの第55代目の大統領に就任した。
しかし、ジウマの陰謀通りの筋書きで展開したシナリオで、2012年6月28日?29日の両日、亜国メンドサ市で開かれたメルコスール首脳会議では、正会員国パラグァイの出席がないままで、次期総選挙で選出予定の新立憲政権が選ばれ就任する(2013・8・15)までフランコ政権を認めず、かつパラグァイの正会員国の資格を停止する提案が可決された。
なお、それまでパラグァイが執拗に反対していたベネズエラの正会員国としてのメルコスール加盟が承認された。
このベネズエラの正会員国資格の公認は同年7月31日にリオ市の特別首脳会議で公式に発表された。
7月にメルコスール輪番議長国へ返り咲く
更にウナスール(南米同盟)、米州ボリバル同盟(ALBA)、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)も揃ってフランコ政権を認めず、そのメンバー資格の剥奪を一様に決定した。正に四面楚歌である。
しかし、現カルテス大統領の就任に伴い、メルコスール復帰が成ったパラグァイ国を取巻く情勢も徐々に改善されて来た。
来る7月16日?17日にはブラジリアでメルコスール市場委員会及び首脳会議がそれぞれ開催されるが、パラグァイはここで3年振りにメルコスールの輪番議長国の席をブラジルから引き継ぐ事になる。
前述の通りパラグァイは2012年に当時のルーゴ大統領の弾劾、更迭の政変がもとで制裁を受け、会員国の資格を剥奪されたが、翌2013年8月15日にカルテス新政権の登場でメルコスールへの復帰が認められた。
「我々は次の輪番議長国として、その任期中(6カ月間)に遂行すべき任務の慎重な検討とその用意に今から腐心している」と、エラディオ・ロイサガ外務大臣は語った。
なお、パラグァイはブロックの構成に欠かせない、重要な国であるとの認識は他の会員国も同じく理解していると付言した。
パラグァイ政府は当初よりメルコスールは、一ブロックとしてEU・ヨーロッパ連合との通商交渉の促進に尽くすべき重要性を主張し力説して来た。単独での折衝又は交渉では有意な貿易関係は開けない。
幸い最近は他の会員国でも同様にその理解の機運が盛り上がりつつあるのは喜ばしい次第である。
小国の悲哀を事ある度に甞めるパ国
最後に、ロイサガ外相はメルコスール会員国の間に存在する色んな通商の障害を永続的に撤去する事が急務だと述べた。
例えば、約一年ほども前からパラグァイのイニシアチブで、メルコスール市場委員会経由でブラジルに提案された関税特別互恵制度に対し、同国は対案を示して来たがパラグァイが満足し得るものではなく、更にブラジリアで来る7月16日に開催のメルコスール首脳会議で検討される予定である。
メルコスール創設正加盟会員国でパラグァイ同様にブラジルやアルゼンチンの両大国のハザマで小国の悲哀を事ある度に甞めさせられている、「同病相哀れむ」仲のウルグァイ国のタバレ・バスケス大統領は、最近ブラジリアを訪問した際に、メルコスール加盟国は他のメンバー国と共に平等な交易の進歩を追及する事を忘れてはならないと主張した。
これは、明らかにメルコスール締約国同士が組して公平に他の第三国又は域外共同体と貿易協定の交渉に当るべき義務に関するメルコスール市場委員会の決議書第32/00号の趣旨にタバレ・バスケス大統領が触れたもので、即ちメルコスールの精神に反し、両隣接大国の「ご機嫌次第」の扱いを常に受けているパラグァイ及びウルグァイの慢性的な悩みを代弁したもので、特にパラグァイはメルコスールで経済的に〃金縛りになっている〃と付言した。