ある日、農場主があし毛の駿馬をわしにくれた。ちっこいやつだったが、可愛いのなんのって。そいつに馬具を着けようとしていたとき、相変わらずぼろをまとったピクマンが現れた。
「あんたにいい贈り物を持ってきた」と汚れた布を広げながら言った。「わしが編んだ物だが、黒いからそのあし毛にぴったりだ……」
そして、みごとに編まれた黒い轡と端綱を馬の頭に掛けた。それがどういういわれの物なのか考えてもみなかった…… 。
わしらの部隊は国境に向かった。その後、あっちこっち移動して、しまいにトゥナス戦に臨んだ……そこで、昔の師団の仲間と再会して、その日は一緒に大いに戦った。そして軍曹に任命されて、肩章の星を一つもらった。
どうやって爺さんの耳に入ったか知らないが、その夜、何某という男が訪ねて来て、年寄りのシルー、兵士のジュッカ・ピクマンが負傷して重態だ。死ぬ前にどうしてもわしと会いたいと言っていると伝えた。
急いで行ってみた。爺さんは羊皮に横たわっていたが、頭も胸も両脚まで包帯に包まれていた……。
哀れなシルーは口を閉じたまま、声も出さずに苦しんでいた。ときどき黒い唾を吐いた……。
吊りランプの弱い光りでわしを見たとき、体を動かそうとしたがだめだった……
「ピクマン……爺さん、参っちまったのかい……」
爺さんは声を震わせて言った。
「わしは……ざるみたいに……穴だらけだ……。わし一人に……八人で……かかって来た。……五人しか……やっつける……できなかった。あんた……まだ……あの端綱を……持っているか……」
「ああ、持ってる。だいぶ傷んでいるがね。だが、爺さん、直してくれるんだろう…… 」
「いや……わしに……あれを……返して……」
「分かった。返すよ!あした持ってくる。」
「ローザの……髪なんだ……三つ編み…… 覚えているか……」
わしは背筋に太い釘を打ち込まれたような衝撃を受けて、立ち上がった……。あの端綱が娘の髪の毛で作られていたんだって?!……何と非情な心の男だ……。シルーに目を向けると、爺さんは大きく目を見開き、咽喉をゼイゼイ鳴らし、体を痙攣させて、息を引き取った……。
その夜明け、わしは偵察隊員を命じられた。だから、ピクマンがどこにどのように埋葬されたか知る由も無かった。できることなら、あの縁起の悪い贈り物を爺さんの墓穴に放り込みたかったのだが……。
縁起が悪い……いや縁起が悪いというのは正しくない。なぜなら、あの端綱を使っている間、ただの一度も怪我をしたことは無かった……その上、勲章を四つももらえたのだから……。
それ以来、贈り物はきちんとたたんで、細い皮ひもで縛って、鞄の底にしまい込んでおいた……。
とうとうある日、もうお前さんには話したことだが、ローザの死を知った。だから……ああ!……これもお前さんに話したな。彼女の柩の上にそれを放り込んで……もとの持ち主に返してやったという訳だ……三つ編みではないにしろ…… 間違いなくあの娘の髪だ!……(娘の黒髪、終わり)