サンパウロ人文科学研究所(本山省三理事長)の勉強会が11日午後6時から、文協ビル内の同研究所会議室で行われた。発表者に本紙クリチーバ通信員の長村裕佳子さんを迎え、「ブラジル邦字紙における日系政治家の選挙関連記事とその読まれ方について―ニッケイ新聞とサンパウロ新聞を例に」をテーマに、出席した12人が議論を交わした。
長村さんは研究における具体的な問いとして、「ブラジル邦字紙の読者の9割がブラジルの投票権を持たない一世移民である中で、日系政治家の選挙関連記事はどのような意味を持つのか」を設定した。
読者、新聞社、政治家の三要素すべてに調査を進めた上で達した結論は、記事は特定の政党のイデオロギーを紹介するものでなく、「移民社会の共存意識やアイデンティティを高める働きを持つもの」とした。邦字紙上で語られる「日系社会は」「日系票」という言葉も、読者に「自分も日系社会のメンバーである」という意識をもたらすと分析する。
読者への調査では「記事に関して特別な関心は持っていない」という人が大半だったが、「日系人が活躍することが自分の誇りだ」という意見も聞かれたという。
日系議員に対する調査でも同様に、「広報が影響するとは考えていない」「日系人に対する活動報告という意味合いが強い」という意見がほぼ全てだった。
発表後の質疑応答では、出席者との間で「日系のアイデンティティとはなにか」「戦後間もない時期には、邦字紙もまた違った意味をもったのでは」といった議論に発展、活発な討議によって相互に理解を深めた。
長村さんは今年パラナ連邦大学で社会学の修士号を取得し、6月中に日本へ帰国予定だが、「この問題はデータだけでは実証できないので、継続して調査を続けていきたい。ブラジルの他のコミュニティへの調査も行っていければ」との意向を示した。