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日系人材の活用を―サンパウロ総領事 小島高明

 新年明けましておめでとうございます。
 平成十三年すなわち二十一世紀の最初の年を迎えるに当たり、これからの日伯関係、特に日伯経済関係に関し期待するところを少しばかり述べたいと思います。
 笠戸丸による最初の移民以来今年で九十三年とほぼ一世紀を経ましたが、その間ブラジル社会、ブラジル経済も著しい変貌を遂げ、第二次世界大戦後に限っても「奇跡のブラジル」、「失われた十年」、開放型自由経済への転換、レアル・プランの導入と、当地日系社会及び進出企業を取り巻く環境は大きくその姿を変えてきました。
 ブラジルにおいては、世界最大の日系社会の先達の努力や、日系企業による優れた技術・商品の導入により、日本及び日系について「信頼できる」「勤勉である」といった評判を得ています。
 しかしながら、いわゆるナショナル・プロジェクト方式という官民協調による展開が過去のものとなり、昨今のブラジルの民営化政策を背景として米国及び欧州諸国が直接投資を積極的に行う一方、日本経済自体がバブル崩壊による長い不況にあったこと等もあり、日系企業のブラジル投資への関心は相対的に低下していたといわざるを得ません。
 こうした中で昨年、経団連とブラジル工業連盟(CNI)によって取りまとめられた「二十一世紀にむけた日伯同盟」構築のための共同報告書は、日伯経済関係強化の意義・可能性・戦略を明快に示しているものであり、ともすれば地理的遠隔性から為替切下げ時の混乱等事件性のある情報しか伝達されなかったブラジル経済の姿を日本に的確に伝えようとする意欲的な試みが成功したものといえましょう。
 ブラジルの政治体制及び経済構造が以前と比較にならない成熟化を呈し、長いその歴史の中でも特筆すべき時代を迎えつつある現在、日系企業が国際経済社会で生き残る企業戦略を策定する上で、南米市場全体をも視野に入れたブラジルの重要性が適切に評価されることを切に期待いたします。
 申し上げるまでもなく、インフラの水準、各種手続等の透明性、治安状態など、多くの課題をブラジル社会が今なお抱えていることも事実です。しかしながら、政府機関も含め日伯両国間がその関係緊密化に向け継続的に対話を重ねていく中で、投資環境の改善方策が浮かび上がっていく可能性もあります。
 また、日系社会という類い希な基盤に着目し、その人材を本格的に活用できる素地を用意することにより、ブラジルでの事業展開を中南米の拠点として相応しい盤石なものに強化することができるかもしれません。
 一方、経済協力の分野に関しては、対ブラジルへの技術協力や資金協力といった政府開発援助は、日本の貢献は他のどの援助国よりも大きく、ここサンパウロにおいても昨年チエテ川流域改善計画につき引き続き低利円借款の供与による第二フェーズが実施されることになるなど当地の経済・社会の発展に寄与をしています。今後とも案件の有効性等を勘案しつつ日伯両国の協力関係の強化に努めていきたいと考えています。
 広大な国土と豊富な資源というブラジルが従来より有していた地の利、日系社会の貢献が築き上げてきた親日感情という人の和に加え、日伯両国の経済環境がともに改善傾向を示す一方、「二十一世紀に向けた日伯同盟」構築のために具体的な提言が盛り込まれた共同報告書が取りまとめられたということをもって天の刻と捉え、この好案件を十分に活かすことができるのであれば、これからの日伯関係、特に日伯経済関係は明るい見通しに基くものとなっていくのではないかとの希望を抱きつつ、新しい年、新しい世紀を迎えた次第です。
 最後にこれまで日伯両国の掛け橋として大きな役割を果たして来られた日系社会の方々に心から敬意を表するとともに、本年も皆様の御健勝をお祈りして新年のご挨拶とさせていただきます。