アリアンサ 新津 稚鴎
冬日負い軍平胸像顔暗し
首ふって歩く他なき時雨牛
犬の嗅ぐ物より翔ちし冬の蝶
どびろくや転耕とどむ術もなく
土深く想思樹の実を植えにけり
セーラドスクリスタイス 桶口玄海児
妻掘りし里芋どれも肥えて居し
移民妻にある大望や芋の秋
移民妻長生き希望今年竹
ここからは町の入り口イペ万朶
キリストの泪の花に今日は雨
サンジョゼドスカンポス 大月 春水
冬日和日本祭の人の波
霧深く車で職場向ふ子に注意
炙鮨ほどよき加減海老の味
送電線枯野の果の町までも
神の旗立てて集る村の人
グアタパラ 田中 独行
霊二百慰めてより入植祭
売り切れる特産菓子移住祭
手作りの扇子に画く蟹仙人掌
脚長き混血早き運動会
身にしむや静寂深き村外れ
ジョインヴィーレ 筒井あつし
父の日やプレゼントにとスマートフォン
※ブラジルの父の日は8月の第2日曜日である。
スマートフォン八十路の手習ひ日脚伸ぶ
バス停の人にも馴れて寒雀
耳掃除うけて夫婦の日向ぼこ
兄妹つきぬ話や日向ぼこ
ソロカバ 住谷ひさお
志保ひがた子規の短冊解読す
志保ひがたとは潮干潟なりと云ふ
子規の句が解読できて春近し
アヌー家族の遊ぶ公園風寒し
詐欺が来て日向ぼこりの吾を誘ふ
サンパウロ 寺田 雪恵
岩と水だけある秋に安らげり
おすそわけしたき夕陽や冬の旅
モルフォ蝶幻の如枯れ葉と居る
石拾い思い出として冬の旅
冬の温泉生命も洗う山の宿
アルバレスマッシャード 立沢 節子
小骨なき鰹の刺身厚く切る
春愁の難聴電話に声を上げ
婿十三花嫁七つ焚火祭
寺院出る新郎新婦に花火揚げ
芥子菜の自生を摘んで畑戻る
マナウス 東 比呂
アマゾンに燗酒升酒コップ酒
渡り来し鴨にあひるのプロポーズ
ツクピーで煮込む山家の鴨料理
Foto By (WT-en) Mimi at English Wikivoyage (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons
年一度替える花さし乾燥花
ボーイ祭牛舞い競う赤と青
マナウス 宿利 嵐舟
別れの日冬至の空はうすぐもり
まだ生きていたかと抱き合ふ移民祭
移民の日おまえと激動五十年
酒くみて来し方偲ぶ移民の日
移民の日妻よおまえは強かった
マナウス 松田 丞壱
鴨狩の静けさ破る銃唸る
コロニーにて父眠る地の移民祭
盛り上がるボイブンバ来て過疎の島
Foto: Patrícia Fontoura/ Agência Brasil
彼氏来てそっと囁く愛人の日
マナウス 阿部 起也
団欒が夜を彩どる冬至の日
鴨来れば寒さ感じず胸熱く
互いの生喜びあふるる移住祭
喧騒をリズムに踊るボイブンバ
アマゾンで夢を繋げや移民の日
マナウス 阿部 真依
冬至粥じんわりしみる母の味
マナウス 山口 くに
アマゾンの木の実も入れて冬至粥
晴れの日の胸に千花のコーサージ
熱燗に目元ほんのり老いし妻
加賀訛り耳に親しや移住祭
鴨泳ぐ五ツ星ホテルは樹海中
冬至粥小鉢の菜はにぎやかに
勇み出し夫の鴨撃ち手ぶらかな
皇室の篤きねぎらい移民祭
彩りも失せずに匂ふ乾燥花
遺影にはいつもの笑顔タネ女逝く
マナウス 丸岡すみ子
おもかげは冬至陽だまりタネ女逝く
鮮やかな色に染められ乾燥花
セラードの風に似合うや乾燥花
孫知らぬ祖父母の苦労移民の日
アマゾンの森思わせるブロッコリー
マナウス 岩本 和子
白菊や童女のようにタネ女逝く
五十路の一人又逝く木の葉雨
踊り娘は八頭身なりボーイブーバー
母の日や母老いて服の良く似合ふ
大根蒔く先ずは間引き菜っぱより
マナウス 渋谷 雅
一分の黙祷で始まる移民祭
なつかしき方言飛び交う移民祭
又一人一世減り行く移民の日
移民の日はるかな記憶の移民船
移民の日二つの祖国に感謝する
マナウス 吉野 君子
湯気の中ほのかに柚子の香冬至風呂
冬至粥食べて老母も息災で
母鴨に小鴨よちよち田圃道
ころげ廻る児の服枯芝にまみれ
ムクインや痒み筆では伝え得ず
サンパウロ 小斉 棹子
故里は帰る処よ根深汁
日本人ばかりの故郷木の葉髪
祖国てふ人の世のもの燗熱し
リラ冷や降りみ降らずみ旅に聞く
泪てふ癒やされるもの春を待つ
サンパウロ 武田 知子
一人居に玻璃の奏でる虎落笛(もがりぶえ)
仰ぎ見る星よりこぼれ来る寒さ
ガーベラの深紅鮮烈目にしみて
牡蠣船に招かれ旅の道頓堀
師の誕生祝ぐかに笑みしバラ五輪
サンパウロ 児玉 和代
寒紅を引きても鏡華やかず
冬晴れの名残りの雲の紅うすれ
日の匂ひ縮む身伸びて干し布団
子等を待つ時間の長しおでん鍋
晩照に枯草ほのとぬくもれる
サンパウロ 馬場 照子
冬の霧頂き天のパラナ松
寒紅に心灯して句会へと
時雨るるや弔に急ぐ道塞ぐ
友逝くやスイナンの紅冴ゆる墓地
“たいもう”も“すきや”も栄え町小春
サンパウロ 西谷 律子
父の日や父の残せし家族増え
苦労話明るく話す木の葉髪
捨て畑にひっそり咲きぬ枇杷の花
窓すべて開けて小春日透しけり
日当りにつつじ次ぎ次ぎ返り咲く
サンパウロ 西山ひろ子
小春部屋近況話し長電話
頂きし温手作り膝毛布
折鶴の舞ふお祝いの小春宴
つつぬけに聞こゆ笑声家小春
治り際に又も貰ひし風邪うとし
ピエダーデ 小村 広江
着ぶくれて命あたたむ昨日今日
そぞろ寒む木立に宿る風の音
手の届く所に親し返り花
冬晴れや魅せらる刻字の彫の枝
おだやかな日和かぐわしカーネーション
サンパウロ 柳原 貞子
健やかな傘寿の祝い冬日濃し
ごめんねの一言云えず時雨道
子にうつる故里訛り煮大根
乙女等の大盛りサラダ冬日濃し
せめてもと老友に贈る冬帽子
サンパウロ 吉﨑 貞子
いくばくもなく乗るタキシ初時雨
冬日射す独りに惜しき好きな場所
掃き寄せし風向き変り二度三度
ふんだんにコスモス咲いて老の庭
原種蘭を咲かせて声かかる
サンパウロ 原 はる江
老達の郷愁満たす郷土祭
スイナンの道辺に紅添えやさしかり
春来ればきっと癒えると云いし母
和太鼓にもやもやぶっ飛び日本祭
野沢菜買って母恋ふ郷土祭
ヴィネード 栗山みき枝
苺喰ぶ電子組みかえうらめしく
芝ふみて腰の具合もたしかめて
原始林一望山脈里時雨
風死して里の木々皆黙の中
花の香にサーラに今日も迷い鳥
※『サーラ』はポルトガル語で居間のこと。
サンパウロ 岩崎るりか
霧の中かすむ街灯冬深き
冬の日はつるべ落しと祖母いそがしき
寒椿今年も又咲き呉れし
飛機よりの遠き灯蒼き寒夕焼け
鍋かこみ夫の誕生祝いたる
サンパウロ 川井 洋子
毛糸帽ヒップホップの男の子
枯れ葉散る患い終えて逝きし友
百才の祝いに贈る寒の紅
冬ざれの墓地を彩る供花の多々
空風に向かい走る子赤い頬
サンパウロ 大塩 佳子
うかうかとテレビドラマに湯ざめして
青くびの太き大根胸に抱き
冬ぬくしふるさと求めて日本祭
ブラジルの早咲き桜ニュースになり
冬休み孫のバッチャンはお婆ちゃん
リベイロンピーレス 西川あけみ
ほうれん草もう出る頃と朝市へ
思い出は姑が多かり木の芋和え
桜餅届けし母のもう亡かり
句友皆個性豊かに春句会
花好きの姑に供える寒椿
サンパウロ 新井 知里
感嘆ししばらく見上ぐ紅イペー
水不足たたりて椿遅く咲き
ふとん干す只それだけでいい気分
猩々木庭の景なり燃えにけり
セーターを並べ装い決めて居り
サンパウロ 三宅 珠美
幸せな家族が宝冬ぬくし
寒紅を引いてたちまちパワー沸き
祝い句座今日の佳き日の師の笑顔
ケントンのおかわりほてる頬あつし
着ぶくれてよちよち歩きの孫愛し
サンパウロ 山田かおる
めぐり来し冬は父の忌父を恋う
赤きバラ師の誕生日句友と祝ぐ
冬の夜記念のよせ書き読みふける
誰か云う粗食で長生き冬うらら
盆法要先祖を偲びつ盆おどり
サンパウロ 西森ゆりえ
枯草をふめばはじける実を持てる
日向ぼこ一人も良しと知ることも
満開の桜が招く万の人
碧空に坩堝となりて花見人
カザブランカ慕情の人は只遠く
サンパウロ 玉田千代美
好きな事好きで続けて老の冬
菊人形立ち往生で枯れてゆく
老の冬よろこび過ぎて轉びおり
冬寒し少し手抜きの厨ごと
ピラールドスール 寺尾 貞亮
冬の朝一杯の粗茶ありがたし
久しぶり魚を貰った鍋にする
白梅やみごと満開三日間
ウルブ舞いはぐれ羊を探し行く
菜園や野菜乏しく韮生えり
サンパウロ 大塩 祐二
ひとの背に温もりためて散る桜
齢重ね日々切々と春を待つ
湯浴み毎愛しく思ふ木の葉髪
炭火鉢風炉と見立てし母偲ぶ
そよぐ風そよぐ陽射しも春めける
サンパウロ 平間 浩二
花見客人又人のカルモ園
花の山一巡りして疲れけり
花見客みんな笑顔や倖せに
歌舞伎あり忍者もありて日本祭
今まさに和食ブームや郷土祭
サンパウロ 太田 英夫
年ごとに縮む背丈や移民の日
寒紅を落せば元の古女房
日向ぼこ浮世ばなれの顔と顔
こそ泥と見れば夜警の頬かむり
入植祭財は成さねど子沢山
サンパウロ 佐古田町子
夢心地三次元さまよい冬の床
汎米五輪飽かず観ている冬の夜
串刺しの里芋旨し冬夕餉
孫子等は取り分け鮨司好き冬の膳
イペーの黄国花と賞びて養国に