アリアンサ 新津 稚鴎
枯野中庭をきれいに掃いて住む
一つ歩き皆歩き出す枯野牛
教会の扉につづくなり枯野径
遠野火をびっしり闇の閉ぢこめし
火の色の闇に滲まぬ遠き野火
【稚鴎さんは、子規の写生俳句の第一人者だと思う。牛を飼い、ゴムの木、チークの木、マホガニーの木の植林もやって居られる。一番悲しいことは、愛妻・まことさんを失われたことであろう。来たる十月三日で百才になられる。でも元気だ。頼もしい先生である】
セーラドスクリスタイス 桶口玄海児
冬の雨蛙と云ふ名のバス停に
ここからは町の入り口花イペー
妻掘りし里芋どれも太かりし
移民妻にある大望や芋の秋
草庵を守る犬の名太郎日脚伸ぶ
アチバイア 東 抱水
啓蟄や宇宙の息吹を聞こえ来る
空低く残る寒さの雲流る
麻州路の大農地帯一番雨
春立つや専業農家多き村
【抱水さんは来たる十一月六日で百五才になられる。おそらくブラジル一の最高齢俳人であろうか。とても元気だと聞く】
ボツポランガ 青木 駿浪
清貧に生きて悔なし花リッシャ
病妻に童謡聞かせ春の昼
啓蟄のありし狭庭に雨が降る
花屑に蝶戯れて庭日和
春星の牧は広けど闇深し
サンジョゼドスカンポス 大月 春水
父の日に酔えば脱がさる上着かな
父の日に辿る卆寿の我が庭居
苺祭り卆寿にはえらきいろは坂
早春の散歩の友の様子聞く
カフェー炒る姉さん被りの移民妻
カンポスドジョルドン 鈴木 静林
冬枯れの野路に当なきバスを待つ
夕時雨隣と云えど谷むこう
夕時雨物問う路筋人影なし
芒原枯れて気になる野火のこと
芒原枯れて兎は穴ごもり
アチバイア 吉田 繁
少年になり自衛艦見る春良き日
軍艦に救命木材春の海
春の日や艦見学のバスツアー
啓蟄の蜥蜴走りて肝つぶす
春夜空多くの友等星になり
ソロカバ 住谷ひさお
よく晴れてイペー散る道朝散歩
へそ出して闊歩の乙女らうららかな
ピアス付け風邪引きそうなおへそかな
父の日や妻のおごりの刺身かな
八才の童の記憶敗戦忌
サンパウロ 湯田南山子
治聾酒やつんぼが癒えるなら飲まん
春愁や病床八年と告げし友
千域の山焼きもせし初期移民
珍らしと屈んで見たり犬ふぐり
虎杖根や高原の療舎故郷めく
リベイロンピーレス 中馬 淳一
ベンテビー白い鉢巻きりりしめ
老桜や木を覆ふが如く花盛り
夜のテレビ桜祭りを放映す
苗桜花もつぼみも少しづつ
父の日や娘に誘われて釣りに行く
イタチーバ 森西 茂行
ふと見上ぐ黄金色のイペの花
ペリキット囀りながらにぎやかに
つつじ咲く華やかな雰囲気もり上げて
子猫抱き親猫やさしく可愛がり
人生の休みにたまには朝寝して
サンパウロ 寺田 雪恵
岩と水に只見とれし旅の秋
窓一杯梅は緑一杯つばめ鳴く
精一杯生命を歌う燕かな
名月や四十年振りの友の文
釣り好きの息子は病みて三とせ過ぐ
サンパウロ 武田 知子
きのこ雲黒雨降らせし原爆忌
玉音にぬかずき咽びし終戦日
現世の地獄さまよひ原爆忌
加護を得て運命拾ひし原爆忌
終戦日紆余曲折の運命生く
サンパウロ 児玉 和代
ひとりでに大手を振って冬の晴
夕ざれや昼束の間の冬ぬくし
寒いとは云えなくもなし夕ざるる
四温晴れ続き忘るる母の忌日
こともなく過ぎゆく不安春近し
サンパウロ 西谷 律子
一人より二人が楽し冬の夜
窓すべて開けて小春日うけ入れぬ
日当りにつゝじ次ぎ次ぎ返り咲く
父の日や良き父親となりし子等
十時には消える島の灯山眠る
サンパウロ 西山ひろ子
百薬の長を語りて燗熱し
熱燗や一オクターブ上る声
着て見れば可愛らしげにどてらかな
良き彩に蟹さぼてんの帰り花
南天の紅葉飾りお赤飯
サンパウロ 新井 知里
冬ぬくし練習艦を見学す
砲のある練習艦の寒さかな
冬の海青く広がりサントス港
鮪買いバスで二時間帰宅せり
ポインセチア真赤に燃えど水不足
サンパウロ 三宅 珠美
ガード下焚火を囲むホームレス
鶏雑炊チーズたっぷり風味良し
寒き夜箸にぎやかに鍋かこみ
冬うらら孫よろこばす鮨にぎる
狭き庭春待ち顔のスイートピー
サンパウロ 原 はる江
山荘へ花見に行けば葉桜に
春来いと必死に呼び交うベンテビー
春のよな気候に気軽な昨日今日
父の日はフェイジョアーダ止め持ち帰る
素心花の咲く墓地甥の葬儀なり
サンパウロ 山田かおる
着ぶくれてさくら見物カンポスへ
小春日にうれしい電話祖母の日と
日本語を話す子等居て冬ぬくし
贈られし毛布ですごせるこの冬を
朝プール午後はおどりて冬ぬくし
サンパウロ 平間 浩二
冬温し自衛隊員の礼儀良き
原爆忌語り部減りし七十年
寒夕焼旅立つ明日の門出かな
俳諧も皆齢老いぬ春を待つ
句碑の立つ万朶咲きせし桜かな
サンパウロ 竹田 照子
瞳を閉ぢて温泉にひたれば幼な我
冬の海心も凍る心地して
山茶花の仄かな香りにむせぶ宵
冬日和渚を歩せば亡夫恋いし
霜降りてリンゴの村の観光車
サンパウロ 玉田千代美
父母の如我をつつみて冬日さす
冬の蝶我が家に入るは器量よし
ためらわず夫の古着で冬過す
未熟でも賞に選ばれ冬うらら
訃に急ぐ心しみ入る冬の月
サンパウロ 林 とみ代
玉音のラジオを聞きし終戦日
阿呍の夫婦の会話根深汁
久に会う幼な友皆木の葉髪
マナウス 東 比呂
鳴き合うて塒に急ぐ日脚伸ぶ
日脚伸ぶバス停人の入れ替り
竹しなう七夕色紙数多く
闇汁のふくみ笑いの無気味さよ
アマゾンはまばらに熟れし珈琲もぐ
早朝のアマゾン渡し着ぶくれて
マナウス 宿利 嵐舟
日脚伸ぶ散歩の時間も少し伸び
日脚伸ぶなんか得な気してうれし
風が来て七夕笹の踊るごと
七夕の悲恋孫等に語り継ぎ
七夕や雨に気をもむ二人星
七夕の願い儚し雨しきり
マナウス 河原 タカ
気のせいかマナウスわずかに日脚伸ぶ
赤ワインポインセチアの如き色
人間を静かに見下ろすハルピーア
我に欲し孤高の王鷹その気迫
短冊を小さき手に持つ星祭
七夕や夢より現実願い書く
闇汁や動ける食指笑い声
マナウス 松田 丞壱
日脚伸ぶ夕餉後外で一と仕事
王鷹の鋭き眼光師に似たり
七夕の愛の架け橋渡り来る
重ね着た恥と思えず老ける齢
目に見えぬ部屋隙間から南風
居間に居てぞくぞく仕出すパンペイロ
マナウス 阿部 起也
七夕に書かぬ愛は胸中に
年取りて七夕の願い慎ましく
闇汁の楽しみ友の驚き声
日脚伸ぶ茜色空帰り道
七夕の淡い思い出懐かしや
日脚伸ぶ得した気分の日暮れ時
マナウス 山口 くに
日脚伸ぶカフェジーニョを又も請う
日脚伸ぶ勤務帰りのショッピング
日脚伸ぶサロンに立ちより髪を切る
猩々花見てより鼻息荒き牛
猩々花還暦祝いの赤帽子
鷹隠に鶏の卵鳴きはたと止む
園の鷹本能露わに雛裂く
河渡る蛇に王鷹急降下
マナウス 岩本 和子
新聞を卓に広げて日脚伸ぶ
用事終え帰宅の庭に日脚伸ぶ
七夕の竹の重さも嬉しけり
マナウス 橋本美代子
日脚伸ぶ郷里の夕べ豆腐売り
公園の体操教室日脚伸ぶ
背丈まで伸びて南国の猩々花
明らかに大鷹の影濃く速く
笹鳴らす風にくるくる願の糸
闇汁や食べるまねして戻しおく
闇汁にモコトの残り豚の脚
マナウス 丸岡すみ子
日脚伸ぶ片付け物もはかどりて
白き窓燃ゆるが如く猩々花
猩々花冷えし部屋をも温めて
王鷹や髙き大枝にでんと座す
七夕や遠年と違う願いごと
闇汁や美味と思えば鎧なまず
マナウス 渋谷 雅
大空を我が物顔に飛ぶ王鷹
ハルピーア樹海をかすめて悠々と
星祭りあまたの願い色紙書く
街酷暑追いうちかける水不足
闇汁会おそるおそる箸入れる
マナウス 吉野 君子
星祭短冊に夢を込めて書く
王鷹の名にふさわしく雄姿舞う
着ぶくれてふくら雀のような吾子
トカンチンス 戸口 久子
アマゾンのジュータ畑に日脚伸ぶ
猩々花蜂雀キスして飛び去りぬ
七夕や家族健在願いつつ
アチバイア 宮原 育子
日本祭孫の和太鼓空駆ける
ものの芽に離農の暮らし励まされ
ものの芽やぞっくり生えし休め畑
陽の温み吸うも返すも春の土
敷石の温み吸うも返すも春の土
敷石のすき間隙間にもの芽出づ
アチバイア 沢近 愛子
八十媼花と語らふ倖せよ
紅イペー先人植えし大樹かな
暖かや車の好きな女の子
友ありて美味しき苺のジャム呉れし
冬晴れや岩山車山くっきりと
マイリポラン 池田 洋子
友来たる春一番の吹きし日に
春立ちて陽はうらうらと土温む
故郷の味を楽しむ春まつり
啓蟄の庭にみみずの姿なく
日本の桜並木は夢なるか
マリンガ 野々瀬真理子
鉢植のむらさき桔梗美しく
街路樹はマナカダセーラ咲いて居る
年老いてミス老婦にえらばれて
八月になり黄色のイッペ咲き始め
黄イッペ春と云ふ名のルアに住み
サンパウロ 佐古田町子
うつむいて謙虚に咲けるユーチャリス
鍋料理野菜たっぷり春の膳
ふるさとは遠のくばかり春浅し
平凡に生きて小春陽背ナに受け
作句する日進月歩老うらら