コロニアの食に関する疑問のうち、「なぜ魚の干物がないのか」の答えが見いだせていない。灼熱の下の重労働なのに、バカリャウ(鱈)の塩漬けで茶漬けばかり啜って栄養失調になったとか、刺身ほしさに豚の脂身を薄く切って食べたとかの話を聞いたことがある。なんとも日本人の魚に対する強い思いを感じたものだ▼一説には、水産業者に干物を食べる習慣のない沖縄移民が多かったという説がある。ただ需要があれば作るだろう。漁業組合もあった。もちろん、家庭で作る人は今でもいるし、たまに店頭で見かけることもある。しかし二、三世で「干物が大好き!」という人に会ったことがない。全員に聞いているわけではないのでなんとも言えないが▼アマゾンにはピラクイという魚粉が一般に売られており、乾物屋には様々な種類がある。元々は現地のものだが、日本移民もこれを大いに利用したという。味噌汁の出汁に使ったり、ふりかけのようにしたり。とはいえ、日系人の家庭に必ずあるものではないようだ。魚の凝縮した旨味を楽しむのは、どうも移民世代で終わりらしい▼しかし、である。リオ、それもブジオスで干物を作り始めると読んで驚いた(10日付け6面)。記事によれば、食べ方を提案するところから始めるという。蛮勇と言ってもいい、開拓移民のような意気込みだ。ブジオスといえば、銅像が立っているようにフランスの女優ブリジット・バルドーが足しげく訪れたことで、世界的に有名になったリゾート地でもある。おしゃれなレストランも多い。そこから干物が広まるなんて、考えただけで愉快だ。今後の展開に期待したい。(剛)