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新財相はどう乗り越えるか?=大型台風の最中に船長交代=〃新しい風〃は吹くのか=サンパウロ市在住  駒形 秀雄

新財務大臣に就任したネルソン・バルボーザ(Foto: Wilson Dias/Agencia Brasil)

新財務大臣に就任したネルソン・バルボーザ(Foto: Wilson Dias/Agencia Brasil)

 この年も押しつまった18日、突如レヴィ財務大臣の退任が発表されました。そして後任にはレヴィと共にブラジルの経済政策を担って来たバルボーザ経済企画大臣が指名されました。レヴィ財相もバルボーザ企画相も一年前にジウマ〔2次〕政権発足時に就任しその輝かしい経歴、実績などから、この国の景気を良くしてくれるだろうと大きな期待を持たれていたのです。しかし残念、不況の荒海を乗り切るべき強力な漕ぎ手の一人、レヴィはその任半ばで降板することになったのです。レヴィは何故退場せざるを得なかったのでしょうか?

 「じゃ、俺がやろう」――新しく主漕ぎ手に躍り出たバルボーザは、どんな力があるのか。どうこの不況の荒海を漕ぎ渡ろうとしているのか? 同じ「ブラジル丸」に乗っている一員として、この辺の事情を調べてみましょう。

健全財政を意図したレヴィ

前任のマンテガ財相から引きついたときのレヴィ氏(2014年12月4日、Foto: Valter Campanato/Agencia Brasil)

前任のマンテガ財相から引きついたときのレヴィ氏(2014年12月4日、Foto: Valter Campanato/Agencia Brasil)

 レヴィ(JOAQUIM LEVY)は米国で経済を学び、国際通貨基金(IMF)、米州開発銀行の役員も勤めた人なので、ブラジルの財政についても収入と支出をキチント管理し、まず国の財政を健全化しようと意図しました。
 どちらかと云うと労働者党―PT的な「大きな声を出す人にお金を回す。要るカネは使う」やり方ではまずい、「そんなやり方はいつまでもは続かない、結局ドンと破綻する、今はまず収支勘定を合わせる政策をやろう」としました。
 しかし、今までの楽なお金の使い方になれていた人達〔特に政治家〕は、この補助金や支出を制限する政策が気に入りません。「(政府の金)を回してこなければ選挙人の票も集めにくくなる。こういうシブチン政策じゃダメだ。収入を増やそうと税金を上げるやり方もダメ、票が取れない」と不満を募らせて来ました。その結果「健全派」の出す政策案が議会の反対にあい承認されにくくなったのです。
 就任時には「財政政策のことはあんたに一任するから」とジウマ大統領からの言葉を得た財相でしたが、結局その政策が実現できなくなっていったのです。
 交代直前にはこういうことも起こりました。来年度予算について、収入から支出を引いた黒字の巾を国内総所得―GDPの0・7%とした案を出したのに対し、別の方面から提出された、黒字巾はGDPの0・5%とする案が正式に採用されたのです。
 レヴィ氏はこの予算案に全力を挙げて取り組み、これを通そうと踏ん張り、「もしこの案が通らなければ、私が財相のポストに居る意味が無い。辞める」とまで言っていたのです。
 最後には、この様な重要なことを決める席にも呼ばれなかったと言います。国の財政を立て直そうと全力を挙げてきたのに、「無念やる方なし」辞任に至ったのでしょう。

新財務大臣はどんな人?

 今度財務大臣になるバルボーザ(NELSON BARBOSA、46歳)もアメリカの大学院に学び財務畑で豊富な経験があります。以前ジウマが政府の要職にあった時にその右腕として活躍し、その信認を得ていました。
 バルボーザは「経済発展派」と目されていて、「まず経済を活性化して、金と物とをよく回転させよう。そうすれば政府の収入〔税収〕も自然と増え、国の収支も改善するはずだ」という考えです。
 「勘定の帳尻を合わせようとあまり支出を切り詰めたり、インフレにならないようにと金利を上げたりするのは自由な経済活動に障害になる」「病人に苦い薬を飲ませるにも劇薬を一遍に与えるのでなく、病人の状況を見ながら、アンバイよくやるのが良い」という考えのようです。
 そういう「アンバイの良い」やり方は「厳しいことは嫌いだ。とにかく今現在面倒のないのが良い」という(ラクチン派)ブラジル人に好まれます。そして政権を心配するルーラ前大統領を中心とする政府、与党からの支持を得たのです。
 「一般国民にあまり厳しいことを強いては皆がついてこない、選挙に勝てない。今我々(PT)はジウマの大統領罷免要求に直面している。罷免要求を否決するためには出来るだけ多くの議員(票)を取り込まなければならないんだ。大蔵筋(財務省)のクソマジメの筋を通そうとして人気を落とし、我が党(PT)が政権を失うことになったら、元も子もないじゃないか」
 これが政権党の本音かも知れませんね。

それでどうなる新政策

 バルボーザ氏は18日現在指名を受け、この週末に財務省、企画省などの実務担当幹部を集めてに意見を聞き、スタッフも決め、公式声明の準備をしました。
 ただ私達としては早く新景気振興策を知りたい、〃新しい風〃はどう吹くのか、知りたいところですので、今まで言われているところを大体纏めてみると、以下のようになります。
▼「皆さん、心配しないで下さい。全ての問題は少し時間はかかっても全部解決しますから」。新大臣バルボーザの心強い言葉です。
 実は金曜日午後遅く大臣交代の発表があった時、金融市場は直ちに反応し、株式市場の平均株価は下落しました。また、外国為替のドルレートもレアル安、ドル高(R$3・94/US$1・00)となりました。市場はこの交代を「またか、ブラジルは変わり過ぎだ」と好感しなかったのでしょう。それで、バルボーザはこの市場の動き、国民の動揺を意識して発言したものと考えられます。
▼「大臣が代わっても財政健全化、インフレストップは政府の大看板だ。まずこれが基本、税制の改革、年金制度の改善などの詳細は後ほど改定案を提出する」。これは前任者への配慮も滲んでいますが、誰がやっても避けて通れぬ道ですね。
▼「鉄道、空港、道路の民営移管などで業務の効率化を図り、政府の収入も増やす。輸出の促進、民間企業の投資振興策も実行したい」。これは既に一部実行されていて、もっともな方策だと言われています。いずれにしても新政策は年末、年始の休暇明け、2月以降に発表されるのでしょう。
 ジウマ第2次政権ではペトロブラス、政府公社などの汚職、経済指標の悪化が連日報道され、一方、実生活では、物価は上がる、失業は増える、で全く良い話がありませんでした。
 一般国民は暗い話ばかりにウンザリして、これも皆大統領以下の政治が悪いせいだ、と政府支持率は低下するばかり。 ジウマさんもここらで一つ変わったことをして、風の向きを変えよう、〃新しい風〃を吹かそうと手を打ったのかも知れません。

政治と経済とボン・ボヤージュ!

 バルボーザ新大臣は21日(月)に正式就任しました。常に理論的経済だけでなく、この様な市場による評価、議会関係者のサポート、更に言えば一般国民納税者の評判も考慮しなくてはならないでしょう。
 国の経済の基本方向を指示する大統領もそういう点を考慮してバルボーザ氏と話しあっているでしょう。ジウマさんの考えは、「経済運営の良し悪しが政権の成否、命運も左右する。経済政策の実行も政界、国民の支持を得る様にしなくてはだめだ」そうなんです。
 ジウマとしては今自分の罷免問題(IMPEACHMENT)を抱えていますから、目先、議会でこの罷免案を否決する多数票を確保することが必要です。議員を自陣に引き寄せる政策打ち出しが必要です。
 更にジウマの後ろ盾ルーラ氏などは「議員と云うよりはそれを支えている国民、我々の場合は労働組合こそが大事だ。この基盤を大事にしよう」と唱えています。
 新財務相の政策としてはやはり労働者の立場を重視する、一般で言えば(左系)の方向が優先されるのでないでしょうか。
 政権の外ではジウマ反対勢力が「変えるのは大臣の一人や二人じゃだめだ。大統領以下、政権そのものの交代だ」と叫んでいます。ジウマ、ルーラも本気で取り組むことになるでしょう。
 いずれにしても嵐の海で漕ぎ手を変えた我が (ブラジル丸)へ進むしかありません。新しい漕ぎ手で、新しい風を起こし、何とかこれを乗り切りましょう。ボン・ボヤージュ!(12月19日記)