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PBの議会調査委員会に出向いたコスタ被告(中央)(Luis Macedo /Camara dos Deputados)
PBの議会調査委員会に出向いたコスタ被告(中央)(Luis Macedo /Camara dos Deputados)

政界洗浄は新年本格化へ=2度目の年を越したLJ=影響は大統領罷免問題まで

 闇の両替商達が洗車場付のガソリンスタンド網を使って不正な金の受け渡しを行っているとの疑惑と、資金洗浄をかけて命名された連警の「ラヴァ・ジャット作戦」(LJ)。2008年に最初の告発があったとされる同作戦は、連警がアルベルト・ユセフ被告らを逮捕した2014年3月17日の第1弾以降、22弾まで進み、2度目の年を越し、いよいよ新年には政界の中枢にまで及びそうだ。

 

PBの議会調査委員会でのユセフ被告(左) (Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

PBの議会調査委員会でのユセフ被告(左) (Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

 最初はパラナ州の1企業を巡る単純な汚職事件に見えたLJ。だが、連警の捜査はペトロブラス(PB)理事だったパウロ・ロベルト・コスタ被告逮捕や下院議員の疑惑関与と辞職騒ぎなどに拡大し、ブラジル政財界を揺さぶった。
 連警と検察庁が摘発する罪状は、保健省などの官庁、PBや原子力発電所管理のエレトロヌクレアルといった公社との事業契約で起きた公金横領や贈収賄、資金洗浄、犯罪組織形成など、多岐にわたる。捜査対象に挙がっているのは、闇の両替商や公社職員、現職の議員や閣僚、議員や閣僚経験者、元大統領に至るから驚きだ。
 現職の政治家以外の容疑者はパラナ州の連邦地裁が扱い、担当のセルジオ・モロ判事は今や国民的ヒーローだ。連警が敢行する摘発作戦毎に裁判が行われる事もあり、刑軽減を約束して知っている事をしゃべらせる報奨付供述に応じる容疑者や被告が多いのも特色だ。

 通常の捜査だけでは入手困難な情報も、当事者による報奨付供述があれば、裏づけは容易だ。家族から「どうしてあなただけが苦しまなければいけないの」と言われたコスタ被告の場合、大手ゼネコンによるカルテルの存在を明かし、PB内の理事を指名した政党に多額の賄賂が払われていた事などを暴露してきた。
 こうした中で最高裁に起訴された政治家には、コーロル元大統領や、ジウマ大統領の罷免請求受理などで注目されているエドゥアルド・クーニャ下院議長らの大物も含まれている。
 クーニャ氏の罷免請求受理は、自分が起訴されたのは政府の差し金との逆恨みや、労働者党(PT)議員も同氏の議席剥奪などを審議する下院の倫理委員会で審議継続に票を投じる意向を明らかにした事が原因だ。
 ジウマ大統領の罷免請求の主因は、公的銀行の資金で生活扶助などの社会政策費を払ったが、それを返済せず、国庫財政は健全であるかの如く見せかけてきた粉飾会計を今年も繰り返していると指摘された事だ。
 景気後退に伴う税収減があったとはいえ、歳入出管理を怠れば財政責任法違反が問われる。大統領は日本行きをキャンセルして工作活動を行い、基礎的財政収支の大幅赤字を承認させるのに成功。安堵の息をついたのも束の間で、議会工作難航で財政調整も進まぬまま、財相交代騒ぎで越年した。


世界一の負債を抱えた石油会社ペトロブラス

PBの議会調査委員会で証言するUTC社主のリカルド・ペソア被告(Lucio Bernardo Junior / Camara dos Deputados)

PBの議会調査委員会で証言するUTC社主のリカルド・ペソア被告(Lucio Bernardo Junior / Camara dos Deputados)

 LJ摘発で大損失を計上したPBは、石油会社としては世界一負債の多い会社となり、採掘船の建造見送りや大幅な投資削減、傘下の企業売却などを強いられた。
 ルーラ政権が導入し、経済伸長に寄与した経済活性化計画(PAC)など、大手ゼネコンが絡んだ事業もすっかり停滞。闇両替商のネウマ・コダマ被告が15年5月の下院のPB議会調査委員会(CPI)で言った、
「汚職の輪が切れたから経済危機や景気後退が起きた」という言葉に納得せざるを得ない状況だ。
 不景気や税収減で基礎的財政収支はLJ開始年の14年を大きく上回る赤字となり、格付会社2社がブラジル債務を投機級と評価。インフレは10%超、失業率も約8%など、先が見通せない中の新年は国民にとっても辛い。
 枕を高くして眠れないのは政治家達も同じだ。罷免問題の最中にいるジウマ大統領は、慌しい年末を過ごした。ルーラ前大統領も、親友の牧畜企業家ジョゼ・カルロス・ブンライ氏がLJで起訴された上、自動車業界優遇の暫定令(MP)延長にまつわる汚職などを扱うゼロテス作戦で、息子に連警の捜査の手が伸び、12月16日に参考人として事情聴取を受けた。現在は一民間人のルーラ氏告発の可否も気にかかる。


検察庁が政界に鋭い捜査のメス入れる

台風の目のクーニャ下院議長(Lula Marques/Agencia PT)

台風の目のクーニャ下院議長(Lula Marques/Agencia PT)

 12月15日に連警が行ったLJ第22弾のカチリナリアス作戦で家宅捜査を受けた現職閣僚、閣僚経験者、連邦議員らは、検察庁が具体的に動き出す事を覚悟しているだろう。クーニャ氏の場合、下院の倫理委員会と検察庁が議席剥奪も睨んだ動きに入っている。議長職と共に議席まで剥奪されれば、逮捕は時間の問題だし、その裁判は連邦地裁に持ち込まれる。
 下院議長の大統領罷免請求受理直後、ルーラ氏は「脱線した国を元の軌道に戻さねば」と言い、「ジウマ氏を追い落とそうとしている人々の真の目的はPTの統治計画を潰す事だ」と語った。
 これに先立つ11月10日、PTのルイ・ファルコン党首は「党関係者の告発は、党を政権から追い落とそうとする陰謀だ」ともぶち上げた。
 だとすれば、PTの統治計画は政権奪取とその維持が目的で、その筋書きの一部が、02年にサンパウロ州サントアンドレ市のセウソ・ダニエル市長の誘拐暗殺を招いたバス会社からの賄賂徴収や、議会工作用に金をばら撒いたメンサロン、PTや民主運動党(PMDB)、進歩党(PP)の与党3党中心に多額の賄賂が流れ込むように設定されたPB絡みのペトロロンかと疑いたくもなる。
 メンサロン、LJと大型の汚職摘発が続き、政治的、経済的危機にも見舞われたPT政権。最高裁は罷免問題の手続きのあり方を審理した後に休廷となり、LJで動いた賄賂が大統領選の資金として使われたとの疑惑に関する選挙高裁の審理も止まった。
 裁判所や議会が通常通り機能し始める2月初旬はカーニバルもあり、LJで注目を集めたモロ判事やロドリゴ・ジャノー検察庁長官らがもてはやされるだろうが、信用や名声を地に落とす人もいる。2月以降に泣いたり笑ったりするのが誰か不明なまま、年が明けた。