モラエスサンパウロ州保安局長が13日、「モビメント・パッセ・リブレ(「公共交通の無料化運動」の意=MPL)はブラック・ブロック(BB)の覆面に過ぎない」とこめかみを震わせながら怒り心頭の表情で記者会見した。それをテレビで見て、保安局長たるもの何で今ごろ気付いているのかと驚いた。一部では〃常識〃的な話だからだ▼MPLが平和的にデモ行進をしている最中に軍警と衝突になり、その後BBが現れて破壊行為になるパターンの繰り返し。MPLはキチンとデモ順路を事前に警察に届けて平和的にデモをし、「参加者を限定しないから、BBが紛れ込んでいた。我々は無関係。勝手に少数が暴れている」と弁明してきた▼でも1年半前の時点で、Veja誌電子版で評論家レイナルド・アゼヴェードは《MPLはBBの覆面部隊だ》(14年6月21日付)との面白い表現を最初に使った。黒装束で覆面するBBこそ正体であり、楽器を叩いて平和そうにデモ行進するMPLの方が〃仮の姿〃と喝破した▼また9日付sensoincomum.orgサイトでも《なぜBBはMPLのデモのときだけ〃紛れ込む〃のか?》との記事を掲載し、《彼らは一つのグループだ》と結論付けている▼ではMPL=BBは何を目指しているのか――。哲学者ルイス・フェリッペ・ポンデーは「MPLは13年をまた起こそうとしている」とテレビでコメントした。思えば13年6月15日、サッカーコンフェデ杯の開幕試合「日本対ブラジル」の前後、MPLのデモが途中からBBの暴動に変わった。それを警官隊が激しく鎮圧、その暴力的な場面が世界から集まったマスコミに大きく取り上げられた。若者が警官に石や火炎瓶を投げては、催涙弾を撃ち込まれて蹴散らされるという刺激的なシーンだ▼それが当時、中東や東欧で起きていた一連の〃◎◎の春〃の「独裁政権に対抗する若者」にダブって見え、社会全体に一時的な覚醒作用をもたらして〃抗議行動の波〃になり、驚いたサンパウロ市はバス乗車賃値上げを取りやめた▼前回はW杯の前、そして今回は五輪の直前だ。ポンデーは「彼らが主張する《公共交通機関の無料化》という〃分かりやすくて不可能な標語〃の裏にある本当の理想は、アナーキズム(反権力主義)、反資本主義だ」と指摘する。無料化が可能かどうかを本気で考えているのではなく、大衆は常に「安い方が良い」と思っている志向に寄り添う標語を打ち出しているだけ、その先にどんな社会が理想かなど考えていない、ただの「反対のための反対」と見ている▼《彼らはマスコミを資本主義の最たる存在と見ており、同時に、刺激的な場面を報道したがる習性を良く知っている。暴力シーンが発生して報道されるほど国民の関心が高まる。だから、彼らは警察を挑発して暴力を待っている。流血シーンは彼らの思う壺》とポンデーは分析する▼銀行を破壊したり、メトロやバスにタダで乗ろうとして混乱を起こし、軍警との衝突を誘発して被害者ぶる戦術のようだ。権力と暴力的に対峙する姿を、マスコミを通じて見せることで、より左派的体制への〃国民の覚醒〃を呼び覚ます―が建前らしい▼ただし、13年6月の〃波〃の時は、市が値上げを早々に諦めてMPLが休止宣言を出した後に運動が変質した。BBだけが前面に立って大騒ぎをするようになると民衆は急に冷めて離れた。あまりにも日常に暴力事件が溢れているせいか、ブラジル人は本質的に暴力が嫌いだ。そのせいか、W杯本番の14年には組合デモばかりになり、一般大衆参加型のデモが復活したのは15年3月だった▼ところが今年は年初からBBが復活。前回の流れからすれば、3月の大規模抗議行動、五輪前のデモ大衆参加に対し、彼らの復活は明らかにマイナスに働く。BBの後ろには左派政党がいるとの噂も…。3月デモが大規模にならなければ大統領罷免は不可能であり、ジウマはBB復活にしめしめとほくそ笑んでいるかもしれない。もしや、そのために〃誰か〃が復活を仕組んだのか――。(深)