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難民と共に過ごしたブラジル人弁護士

 サンパウロ州出身の弁護士エジガルド・ラオウル・ゴメスさん(30)は、欧州の難民のニュースに心を痛め、彼らの痛みを身を持って体験しようと、リュック一つと寝袋、パスポートと小額の現金を持って旅立ち、シリア人難民と26日間行動を共にした。
 クレジットカードは持たず、路上や公園、鉄道の駅で寝た。寒さ、飢えに耐え、逮捕もされた。12日間もシャワーを浴びられず、行程を終える頃には8キロも痩せていた。
 彼の計画は道すがらの人々を助けること。同時に、難民問題の見地から人類が直面している危機を理解する事だった。
 「自分の立場を難民の中でも一番辛い部類に置いた。若い男で、独身でお金が無い。そんな彼らと同じ場所に寝、同じ物を食べた。彼らがどんな状況に直面しているか、世界が彼をどのように扱うかを知る事ができた」と語る。
 人権専門の弁護士であるエジガルドさんは、サンパウロ市の法律事務所で働いていた。グループ研究をしていて、自分の専門分野の本の一部の記事を書いたばかりだったが、理論だけでなく、実情を知りたくなったのだという。
 「これまでは理論だけで、実践の機会がなかったんだ。人権を侵害されるという事が、体感レベルでどういう事か分かっていなかった。幼い時からやりたいと思っていた人を助けるという目的のために、事務所を辞めたよ」と振り返った。
 15年3月にブラジルを離れたエジガルドさんは、まず、ニューヨークに行った。同地の人権団体の仕事ぶりを学ぶためだ。11月に欧州の難民騒動のニュースが世界を駆けめぐり、この問題は容易には終わらないという事実を突きつけられた時、ギリシャに行き、ボランティアとして活動する事にした。
 最初に行ったのは、欧州を目指す難民船が漂着する場所の一つのギリシャのレスボス島だ。そこでボランティアとして働いた。食事を用意し、配り、テントを建て、次から次に漂着する難民の輸送を行った。
 そこで一番印象に残った出来事は、腕に娘を抱え、ボートで海を渡ってきた父親を助けた時だった。女の子の身体は冷え切り、青ざめて、まるで死んでいるかのようだった。命だけでも取り留めて欲しいと一縷の希望を持って女の子を抱きしめた。「女の子が突然目を覚ましたんだ。急いで医療班に手渡したよ」
 ギリシャでは、難民達を移動させるため、寒くて雨の降る日に18時間も車を走らせたりした事もあった。今回の旅で、ギリシャやドイツは難民に寛容だが、セルヴィアやマセドニアでは酷い扱いをしているのを目の当たりに見たという。
 エジガルドさんは、セルヴィア人の露天商が難民というだけで差別し、シリア人の子供が両親にねだったたった一つのりんごに10ユーロ(1280円相当)を要求した時の事も忘れることができない。「この旅で、人間の残酷さ、黒い一面を沢山見た。もちろん親切な人も沢山いたけれど」と主張する。
 難民にとって一番の敵は寒さではなく、空腹と疲労だという。「食べたくても食べる物がない。トイレに行きたくても行けない。警察の許可が出ないとバスも出ない。好きな時に眠れない。家族や所持品を守らなくてはいけない。心細くて、自分が見放されたように感じる。人生で見てきた中で一番辛い光景だった」
 7カ国を経てドイツに辿り着いたエジガルドさんは現在、オランダで、ヨルダン、パレスチナ、イラン、イラクなどの中東行きを計画している。「彼らの道のりは分かった。今度は彼らがどこから来ているかを知りたい」と語る。(14日付G1サイトより)