ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(876)=星野瞳 選

ニッケイ俳壇(876)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

この移住地に果つる運命の暑に耐ふる
日本の夜となるを待ち初電話
掛乞や仏頂面は生まれつき
恐竜より進化せしこの羽抜鶏

【作者は百才を迎えた。この二十三日のニッケイ紙に、寿命百才時代の生き方てふ記事があったが、稚鴎さんは俳句をひたすら作る生き方をされるであろうかと思う。第二句集を出されたばかりである】

   プ・プルデンテ       野村いさを

只一字風と今年の筆初
初乗りはリッツアで当りしメルセーデス
長生きをすれば賀状の数も増え
初夢も仕事仕事に夢現つつ
世は移り子供礼者も寄りつかず

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

知らぬ間に財布盗られて年暮るる
盗難の事後処理忙しき師走かな
不運なる年も漸く越しにけり
ブラジルやシャンパン抜いて年酒とす
夏の浜眩しきまでに孫育ち

   ペレイラ・バレット     保田 波南

岩しぶく滝に消えざる虹のあり
霧去って滝超然と現れし
鼻鳴らし驚く馬や蛍とぶ
汗の馬下りて拍車を鳴らし来る
夕闇の恋に蝙蝠かすめとぶ

   リベイロン・ピーレス    中馬 淳一

初鐘しわをのばして髭を剃る
又一つ齢を重ねて雑煮食ぶ
新春や家族でお神酒酌み交わす
聞き見えるスマートホンや初電話
初便り故郷の香り封じ込め

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

朝の市初荷の苺十箱ほど
初苺ふくめばかすかな酸味かな
草刈りの残して行きし釣鐘草
雨近し螢ぶくろは下をむく
杣道をたどり見つけし苔の花

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

お雑煮のおかわり混血の孫二人
成仏を祈る此の地を去りし友
数珠を手に祈る電話の訃の知らせ
若水を汲む孫子等や初日の出
半生は鶏飼い日記書きとめぬ

   サンパウロ         鬼木 順子

雨晴間星少し出て十二月
火の玉の天駆け登る大晦日
夏空や雲に届いて鳥の舞い
この頃はハグロも慣れて夏霞
壊れ人中我も有り秋近し

   サンパウロ         寺田 雪恵

高きより声かけ猫は降りて来ず
抱きし手をついでになめて猫の夏
餌と水あっても愛のほしい猫
隣りの猫が餌盗んでもわが猫知らん顔
座布団にざぶとんの様に眠る夏の猫

   ソロカバ          住谷ひさお

雷の雨呼ぶ力たらず去る
白雨の吾が家包める五分ほど
黄金藤咲き去年実の落ち続く
朝涼や犬に引かれて散歩人
チプアナにジャカランダ落花道へだて

   イタチーバ         森西 茂行

年末の除夜の鐘にて別れ行く

   サンパウロ         佐古田町子

推敲して稚拙の私講夏あつし
窓外に飛び交うつばめ夏の朝
花に水かかさぬひとよ夏の夕
青野菜たっぷり煮込む夏の膳
窓を打つ夕立荒し雨戸繰る

   マナウス          東  比呂

ずぶぬれも又心地よし大夕立
タンバッキのペッシーダにわく家族

『タンバッキ』『タンバキー』とは、コロソマのこと。アマゾン川水系などに生息する大型淡水魚のこと。 (Foto By Rufus46 (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)

『タンバッキ』『タンバキー』とは、コロソマのこと。アマゾン川水系などに生息する大型淡水魚のこと。
(Foto By Rufus46 (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)

励まされ励まされして卆業す
行く年の祝い魚を買う市場
浮浪児等軒で祝いしクリスマス

   マナウス          宿利 嵐舟

夕立を肴に一杯茶杯酒
大夕立相合傘も濡れねずみ
行く年に想い巡りて一人酒
行く年にハンカチ振って別れ歌

   マナウス          河原 タカ

夕立に濡れ髪光り振り向きて
孫帰り静けき我が家マンガ食ふ
ジャージからスポーツ大学卆業す
行く年や大河臨める丘に立ち

   マナウス          松田 永壱

アマゾンでタンバキー釣れ船料理
苦学生卆業出来て新船出
卆業式吾子を見つけて涙ぐみ
吾子を抱き年越蕎麦に母の腕
石臼のごとき歯並ぶタンバキー

   マナウス          村上すみえ

カヌー漕ぐ人隠し来る大夕立
青くてもこれは美味いとマンゴ売り
孫二人角帽似合い卆業す
一勢に角帽ほうり上げ卆業す
幼なきの残る顔持ち卆業す

   マナウス          丸岡すみ子

夕立や胸の空くよなひとあばれ
黄と甘みサラダの引き立てマンガかな

   マナウス          山口 くに

土の香を残して夕立はたと止む
古稀祝うタンバキづくしの湖の宴
卆業の恩師の言葉に泣いた日も

   マナウス          岩本 和子

マンガ吸う次から次と止められず
卆業の若き二人に幸あれと

   マナウス          橋本美代子

移民村各戸マンガの大樹あり
泥臭さ消えた養殖タンバキー
暑さ耐えマンガたわわに甘く生り
卆業式涙で歌えぬ校歌かな
行く年の良き事のみを数え挙げ
追いかけて追いつかぬほど年行けり
クリスマス家族に友にプレゼント

   マナウス          渋谷  雅

夕立に逃げ場失しなう露天商
背伸びしてやっと手届く熟れマンガ
先生の情でやっと卆業す

   サンパウロ         柳原 貞子

空白の多々にありし古日記
会長は日系三世忘年会
年毎に豪華になりし新暦
車止め手びさしで見る夏の海
老後とて多忙の日々や忘年会