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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(46)

 酒とクスリの相乗作用で完全に盛り上がった二人は、疲れを知らずに踊りまくり、カロリーナは群馬のアパートに帰ることをすっかり忘れてしまった。
「二人ともたっぷり汗をかいたところで、外の新鮮な空気を吸いたくなってディスコから出ました」
「それから?」
「二人で腕を組んで、六本木の街をさまよいました。どこをどう歩いたのかよく覚えていませんが、気が付くと麻布警察署の裏にある青空駐車場のあたりに来ていました。そして、その場所から私が目指している世界が見えました! 」

【第21話】
 木村社長は、夜の街に輝く六本木ヒルズのビルを見上げながら、カロリーナに自分の夢について語り始めた。その顔は、優しい恋人から野心的な男に変わっていたに違いない。
「私一人が話をしているうちに、腕を組んでいたカロリーナが、突然うめき声を上げてうずくまりました。倒れた彼女に声をかけても返事がないし、彼女の呼吸はだんだん弱くなっていきました。真夜中のその場所は人通りが少なくて、たまたま携帯を持っていなかったので、救急車を呼ぶために六本木通りまで走りました。二人でクスリをやったのを思い出して、警察署に駆け込むのはまずいと思い、六本木交差点の方に行くと、そこに公衆電話のボックスがありました」
 電話で救急車を呼んだあと、木村社長は酒の酔いもクスリの効果もすっかり醒めて我に返り、電話ボックスの中にうずくまった。
「不法入国した外人の女とクスリをやって、自分は一体何をしているのかと思いました。しばらくして救急車のサイレンが聞こえましたが、私はカロリーナが倒れているところには戻れませんでした。自分が今まで必死に築いてきたものが崩れてしまうのが怖かったんです」
 リカルドが、今度は冷めた声で言った。
「結局、社長はいつも自分のことだけを考えて生きているんですね。だいたい、社長みたいなビジネスマンが携帯を持っていないのはおかしいですよ。携帯を使うと自分の番号が記録されるかもしれないから、まずいと思ったのでしょう。たぶん、怖くなってその場から逃げていく途中で、やっぱりカロリーナを見捨てられなくて、公衆電話から通報したんでしょう?」
「何と言われても仕方がありません。でも、それからは、カロリーナがどうなったのか気になって、夜も眠れず、またクスリの助けを借りるようになりました。何日かして、新聞でブラジル人の女性が六本木の路上で死んでいたという記事を見つけて、カロリーナのことだと思いました」
「警察の情報では、カロリーナさんは心肺機能が完全に停止していて、即死状態だったらしいです。ネットで調べたんですが、ディスコとかで踊って汗をかくと脱水症状みたいになって、クスリの血中濃度がかなり上がって、心臓発作や脳卒中を引き起こすこともあるそうです。最近では、カロリーナさんみたいに、クスリに過敏に反応する人が中毒死する事件がよくあるらしいです」
「自分を愛して子供まで産んでくれた女性に、何てひどいことをしたのかと思って、心の中でずっと苦しんでいます。日本に帰って仕事に追われているうちに、いつの間にか金儲けがすべてになり、自分さえよければいいような・・・心の貧しい人間になっていました」