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五輪を見に行けない地元の子供たち

エレベーター塔の展望台から見えるイパネマ海岸を背景に、富士山パネルと記念撮影する子供たち

エレベーター塔の展望台から見えるイパネマ海岸を背景に、富士山パネルと記念撮影する子供たち

 「リオ五輪の試合は何か見に行くの?」。リオ市立マリリア・デ・ジルセウ小中学校で27日に富士山写真展の開幕式をやった後、出席した男子生徒にそう聞くと、隣にいた友達と顔を見合わせて「行く予定はないよ」と少し恥ずかし気に応えた。「どうして行かないの?」と畳みかけると、困ったようにうつむいたので、それ以上聞かなかった▼彼の態度は学校のすぐ裏のファベーラに住んでいる子供の平均的なものだろう。一般的に公立小中学校に通うのは裕福でない層で、授業料の高い私立校には中産階級以上が通う。だから公立校の生徒には五輪の入場券が買えないし、サッカーやバレーなど一部競技以外には関心が薄い。実際、入場券の売れ行きは悪い。最終的に政府が買い上げて無料配布する話まであるらしい。もしそうなれば、生徒は行けるかもしれない▼式の後、子供たちに案内されて、学校のすぐ裏のカンタガーロのファベーラに行くエレベーター塔「ルーベン・ブラガ」に乗った。最上階が展望台になっており、美しいイパネマ海岸が広がった。「ねっ、この眺めキレイだろ。すごいだろ。写真撮りなよ」と押し付けてくるように言ってくる。当たり前だがこの眺めは、富裕層が住む海岸べりの住民には見られない。山の上からの眺めと同じだ▼展望台で子供の一人が「ほら、あそこにクリスト・レデントールが見えるんだ」と胸を張った。地上部からは見えない事が多いが、上からは見える。モーロ(山の上、ファベーラのこと)に住む者の数少ない特権だろう。彼らにとってはキリスト像の立つコルコバードの丘こそが、日本人にとっての富士山かもしれない▼エレベーターに乗る前、同校教員から「子供たちと一緒にいけば、ファベーラの中でも大丈夫だ。彼らの家族にはトラフィカンチ(麻薬密売人)がいるから、身内の客として絶対に襲わない」と妙な説明をされた▼このエレベーター塔は2010年に州政府によって建設され、メトロのゼネラル・オゾーリオ駅と一体になっている。二段式になっており、まず駅から直上に登り、そこから水平に延びる空中通路を通って、もっと山際まで数十メートルほど歩き、別のエレベーター塔に乗り換える。そこを上がればもうコムニダーデの中心部分に直結する。もちろん無料だ▼夕方5時半ごろにエレベーターに乗った時は15人ほどの短い列だったが、展望台から降りてきた6時頃には150人ぐらいの列に伸びていた。仕事を終えて家路につく上の住人たちだ。生徒たちは列の人々と楽しそうに挨拶する▼今ではあっという間に上がれるが、エレベーター建設以前は何百段という階段を上がらなくてはならなかった。一日過酷な労働した後、ダメ押しのように階段を登る足は重かっただろう。子供の元気な足で「10分」以上かかる階段。年寄りにとってはあまりに過酷な〃山登り〃だ▼同校の社会科教師で、この写真展のコーディネータを務めたダビ・レアルさんにその子供の反応を話すと、「うちの生徒の大半はオリンピックを見に行くことはないよ。残念ながらそれが現実さ」と憤るように言った。開幕式の後、コパカバーナ海岸のレストランで挙げた小さな祝宴の時のことだ。さらに彼は「モーロの住人は、こういうところで〃客〃として食べる機会も一生ないだろう。すぐ近くに住んでいるけど別世界の住人。給仕する側なんだ」というのを聞き、良く冷えたビールが急に苦く感じられた。(深)