ペンネーム「筑紫橘郎」さん(本名=樋口四郎)が書いた自伝小説「月のかけら」を本日から掲載開始する。1935年に福岡県で生まれ、辛い戦中に子供時代を過ごし、1956年12月に「コチア青年」として渡伯した。
筑紫さんはセアザで仲買人をする傍ら、浪曲師をしていた経歴を持つ。その道の有名人だ。そのせいか、語り口はすこぶる軽妙で、福岡方言をたくみに織り込んで、読む者がその場にいるような感じをもたせる。長編小説は初めての執筆だというが、すでに独特の文体を持っている。
たとえば第一章の移民船の場面では、大荒れの太平洋上で魚を捕まえ、危険な甲板で無謀な酒盛りをして乗組員からお目玉を食らう話や、赤道祭での真にいった役者ぶりの描写などは、じつに臨場感あふれる。
主人公は「千年太郎」との名前だが、ほぼ実話ではないかと言われる「自伝小説」だ。戦後移民の多くがたどってきた悲喜こもごもの体験と、移民本人ならではの赤裸々な気持ちがちりばめられている。
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