日本の最高裁は単なる「司法のトップ」だが、ブラジルの最高裁は大統領の上に君臨し、〃民主主義の守護神〃、もしくは〃生き神さま〃に近い存在ではないかと、時々思わされる▼ラヴァ・ジャット作戦(LJ)などの汚職捜査で、大統領や大臣を含めた連邦議員を裁くのは最高裁。司法取引証言(報奨付供述)を承認し、司法機密を知っているのは最高裁や連邦検察庁の周辺だけ。マスコミに漏えいしているのも〃その周辺〃だろう▼つまり、どんな爆弾証言がどんなタイミングでマスコミに出てくるかは〃その周辺〃の思わく次第…。漏えい自体が司法やそれに結託したマスコミから問題にされたことは一度もないという経緯から、「意図的だ」としか思えない▼先ごろもトランスペトロ社のセルジオ・マッシャード元総裁の司法取引証言の盗聴記録が暴露されて、LJ作戦をひそかに妨害しようとしていた現役大臣2人が辞任した。「新政権発足自体は良いし、さっさと経済立て直しをすべきだが、LJを妨害する芽は早々に摘むよ」―という〃神の意思表示〃に見えなくもない▼今週、ブラジル最大手建設会社の元社長、マルセロ・オデブレヒト被告が「司法取引証言に向けた交渉に前進」との報道があった。政治家らが恐れに恐れていた事態が起きるかもしれない。その証言には300人もの政治家名が列記されている。いずれ、折りをみて暴露されるだろう▼先に暴露されたマッシャード元総裁の盗聴記録によれば、サルネイ元大統領は、オデブレヒト被告が司法取引証言に応じたら「100口径の機関砲並だよ」とその威力の凄さを苦々しく表現していた。最も一般的な重機関銃M2が50口径だから、その2倍(実在するか?)の機関〃砲〃がバリバリと火を吹いたら、政治家はなすすべもなくバタバタとなぎ倒されるということか▼とはいえ、現在の司法至上主義的な有り方が手放しに素晴らしいかといえば、それはそれで極端だ。どこか危険な匂いすらする。この2日、それを象徴する出来事が2件起きた。一つ目は、上院のジウマ大統領罷免特別委員会で審議日程短縮化が審議された件だ。8月末までという当初の予定から、7月末までに大幅に前倒しされる方向に。最終判断はリカルド・レヴァンドウスキー最高裁長官に委ねられた。大統領代行の周辺としては、五輪前に罷免を完了させたいだろう▼二つ目は、下院議会で連邦公務員の大幅な給与調整が可決され、上院に回された件だ。先ごろ1700億レアルもの巨額財政赤字を承認し、「財布のひもを締める」とメイレーレス財相が発表した矢先に、この先4年間で580億レから1千億レもの大幅支出増が議会で承認され、テーメルも承認を喜ぶコメントを出した。明らかに財相の敗北であり、チグハグだ▼でも政治評論家のケネディ・アレンカール氏は2日朝のラジオで「この〃爆弾法案〃に関して最も強く圧力をかけていた一人はレヴァンドウスキー長官」との内幕を指摘した。最高裁判事の給与が調整されれば、シャワー効果で連邦、州、市の公務員もそれに倣って調整される。つまりLJをけん引する最高裁、連邦検察庁、連邦警察も利益を享受する▼首に縄をつけられた300人の政治家らは司法界に強く出られない。その状況の中で、現体制は給与調整を承認する代わりに、ジウマ罷免を早く終わらせる審議を通す水面下の交渉をしたのか―と勘ぐってしまうタイミングだ。上院にしても、ジウマ罷免を直接審議するだけに、弾劾法廷を司る最高裁長官の意に反して、給与調整法案を葬り去るのは難しいだろう▼現行憲法で、大統領罷免より難しいのは、最高裁判事の罷免―という識者もいる。司法界トップである以上、同僚判事が裁くことになるからだ。今回の給与調整が、万が一にも〃司法暴走の兆し〃でないことを切に祈りたい。(深)