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「南米『棄民』政策の実像」(遠藤十亜希著)

 【共同】ブラジルやペルーなどで日系人社会が根を下ろしていることはよく知られている。中南米に新天地を求め移住した日本人は、明治後期から高度成長期まで約31万人に上り、多くは日本政府が積極的に奨励した「国策移民」だったという。だが日本側のずさんな計画に加え、入植地の悪条件、反日感情の高揚による排斥など、戦前戦後を通じて彼らの歩みは苦難の連続だった。
 早くから問題が噴出していたのに日本政府はなぜ、経済水準が低い国々への移民に固執し続けたのか。人口増対策という通説に疑問を投げかけ、国内政治との関わりから、その理由に迫る。
 著者は、政府が戦前は貧農や失業者、戦後は炭鉱離職者や引き揚げ者といった「反体制」に転じかねない人々を巧妙に「排除」する手段として移民制度を活用したと考察。一方で、対外的な国威発揚や「国際貢献」を体現する存在として移民を利用したと指摘する。グローバル化時代の国家と国民の関係について考えさせられる一冊だ。
 (岩波現代全書・2376円)