書類8を添付した後にルツガルデス・ポッジ・デ・フィゲイレード補佐官は次のようなコメントを書き記している。原文のまま引用すると、
「本件に関して、種々の調査の結果、ヘイタカ・タイラはサンパウロ州、ツパン市、バストス区にある日本人グループによる政治的活動機構の一員であることが判明した。同機構は同胞の指導者、ユゴ・クサカベのもと、次のような者の指導のもと活動していることが判明:アンボ・サンジロ、クジアマ・シキチ、ハンゾ・イシロ、シンザク・ハヤシ、マザジロ・スジナタ、タケオ・ニシヤマ、並びにキタロ・アンボ」
会の本部に選ばれたバストスは、ブラジル国の異分子の日本人が集まりやすい土壌をもつところで、植民地には七千人の日本人が暮らしていた。何しろ、日本人がバストスの総人口の75%を占めている土地柄だったのだ。日下部の指導で行われた活動は、根強く広範囲におよび、マリリア市に住む日本人で事情がよく分からない者などは、すぐにでも日本へ帰国できるものと思い込み、荷物をまとめた者などが出て大騒ぎになった。
日下部自身が書き、本人やその仲間によって配られた通知書は、資料9の翻訳を読む限り、ブラジル人やブラジル政府にとって、はなはだ名誉を毀損する内容であった。
【書類9】
日系二世に自国で自由に、彼らが尊厳を持ち、気兼ねなく繁栄できる権利を与えよ。当文章は日本対アメリカ戦に重きを置くものである。偽デモクラシー、特にアメリカで言われているようなデモクラシーを打倒しなければならない。
北アメリカの人間が唱えるデモクラシーの底に隠されているのはユダヤ思想に過ぎず、資本主義が蔓延した国、つまるところ、腐敗した国のみの存在があげられる。アメリカを偉大な国として尊敬している者たちはその実態を知らない。
また、アメリカを知っているという者たちは、その得意とする自国の宣伝に惑わされている。そのような偽善者の多い国と日本が国交を断ち、宣戦布告をしたのは正解であった。
なぜなら、日本国は我慢の限界を超え、平和を保持しようと努力したにもかかわらず、太平洋における正当の要請である返還要求にも応じてもらえず、そのため宣戦布告するほか術がなかった。
アメリカ繁栄の裏には移民受け入れの事実があり、その繁栄の多くは日本がアメリカのために働く勤勉な労働者を送ったからに他ならない。
しかし、すぐさま人種差別が起こり、日本人は迫害を受けた。ルーズベルトの国は、日本国民を怒らせることを実行し続けたのである。日本はその国柄、外交を重んじ、市民の権利を重んじる国である。
つまり、道徳に則った行動を起す国であり、西洋人には理解されることがない道徳心を持っている。ブラジルには住みつく気で移住したが、中にはこの国で一儲けして国に帰ることを考えていた移住者もいた。定住組も錦衣帰国組もこの国で子を産み、その子たちは生まれた国に同化していった。
しかし、現在のブラジルは我々が想像していた国とはかけ離れてしまっている。今日では我々は何の権利も持ち合わせず、我々の子弟で「ニセイ」と呼ばれる層に対して、ある年齢に達するまで日本語の学習を禁止していた。また、成人も、世界情勢やブラジルの事情を知る手がかりとなる情報機関を失っている。我々はブラジルで起こっている出来事からすら取り残されているのだ。
例えば、発令されているブラジルの法令などからも完全に除外されている。我々はいずれの法治国家でも外国の情報機関が認可されていることを知っている。北米でさえ、日本と戦争中のあいだも、何が起きているのかを知るために、日本の主要な新聞が出回ることを禁じてはいなかった。
ブラジルではマスコミが国粋化する以前、あるいは国交が断絶される以前にこの権利は日本人から奪い取られた。アルゼンチンでは日本語新聞や他国語の印刷物は、出回っているのである。
結果として、我々の子弟「ニセイ」は完全にブラジルの「カボクロ(先住民と白人の混血)」化し、将来への希望を断たれ、他のブラジル人一般となんら変わることなく、この国に消散してしまうであろう。
同胞よ! 我々の置かれた立場は嘆息すべきものである。我々の立場は脆弱ではあるが、ここで臆してはならないのだ。
当国は我々には何の権利も与えていない。見捨てられた我々は、昔の良き時代に戻ることはできないのだ。ゆえに我々は一致団結しなければならない。団結しよう! 我々は自己の権利を主張し、もしこれが叶えられなければ、今日では広大な植民地を有するわが国に帰国せざるを得ない。日本国の常識ある政府の庇護のもと、アジアの国への集団帰還を促進し、定住しようではないか!
このため一致団結して、良い指針をあたえる我々の会を支援し、世界の他の人種より優れている日本人を保持しつづけようではないか!