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ビジネスコラム=PwCブラジル=第10回=CEOは地政学的不確実性を懸念=第19回世界CEO意識調査=矢萩(やはぎ)信行(監査ディレクター)

6月30日、ブラジル商業・企業家連合(CACB)と政府の会合で、代表者に取り囲まれて写真撮影に応じるテーメル大統領(プラナルト宮、Foto: Lula Marques/AGPT)

6月30日、ブラジル商業・企業家連合(CACB)と政府の会合で、代表者に取り囲まれて写真撮影に応じるテーメル大統領(プラナルト宮、Foto: Lula Marques/AGPT)

 今回はPwCグローバルが毎年行っている世界CEO(最高経営責任者)意識調査の結果について寄稿したいと思います。今年で第19回目となるこのPwCの世界CEO意識調査は、世界83カ国1400名以上のCEOから意見を聞いています。
 今後1年間の世界経済の見通しについて、CEOは2015年と比べ悲観的な見方をしており、これは自社の成長についても同じ傾向です。多くのCEOは、危険を冒したくはないとしながらも、成長の機会を探っています。
 今後の成長見通しについては、やはり米国および中国が圧倒的に重要な市場であると考えており、追随するドイツと英国を大きく引き離している状況です。
 新興国に目を向けるとインドへの強気の経営姿勢と、ブラジル市場にも可能性を見いだしています。昨年は、メキシコとUAEにおける新しい潜在的な機会にも注目が集まりました。
 世界のCEOの最大の懸念となっているのは、租税負担の増加や財政赤字・国家債務などからの政府の対応による過剰な規制などが挙げられます。くわえて、地域紛争やテロ攻撃などの地政学的な不確実性が最大の懸念であると答えたCEOはほぼ4分の3を占めました。
 また、CEOを迷わせるのは、政治、経済、事業、社会、文化の動きが多様化するにつれ、グローバル化した経済や社会システムが崩壊しつつあるという感覚のようです。
 この不確実な世界で正しい方向に進むために、CEOは直近の事業運営において多くの困難に直面しながらも、より複雑なグローバル市場に対応することが可能な将来のビジネスを構築することが必要であると考えているようです。これらの課題に立ち向かうため、CEOは以下の三つの中核的なケイパビリティ(組織的能力や強み)に着目しています。
 一つ目は、ステークホールダー(利害関係者)の高まる期待に対処するケイパビリティです。多くのCEOは、顧客のニーズに、より一層注目するとともに、自社の存在意義、すなわち会社の使命に基づき、社会の中でいかに事業を運営すべきかについて、より包括的な理念を定めることで対応しています。
 一部のCEOは、この包括的な使命と、会社の主要な収益目標とのつじつまを合わせるために、具体的な措置をとっているようです。
 二つ目は、ステークホールダーの大きな期待に応える戦略を実行するために、テクノロジー、イノベーション、人材を結びつけ活用するケイパビリティです。
 CEOは消費者に近づくためにテクノロジーを用いて、自社の使命に対する強いコミットメントをしっかりと見据えながら、全体的に価値ある提案、戦略、業務、ケイパビリティを構築することにより、いわゆる「実行ギャップ」を埋めています。また顧客の期待の変化に対応するため、より優れたイノベーションと人材のケイパビリティ構築も目指しています。
 三つ目のケイパビリティは、成功を測定し、その結果を周知する方法です。CEOはイノベーションの影響と価値、そしてステークホールダーにとっての主要なリスクを、より正確に測定したいと考えています。企業は、ビジネスプロセスに関する見識を深め、より広範な変数を測定するため、データとテクノロジーにさらに注目することで、これらの課題に取り組んでいます。
 このようにCEOはさまざまに異なるステークホールダーの要求を満たすことと、自社ビジネス需要を満たすことの間で板ばさみとなっており、テクノロジー、イノベーション、人材をより効果的につなぐことで、企業はそれを両立するケイパビリティを獲得することができます。
 そのためには、顧客が何に関心を抱いているのか、また自社の使命は何なのかについて深く理解することが求められており、顧客戦略を効果的に実行するために、そうしたコミットメントを組織全体で共有することも必要です。
 さらに、そうした戦略がどのように実行されているのかを計測し伝えるために、データやテクノロジーを最大限に活用することも欠かせません。
 企業にとって、顧客価値の実現と戦略実行をバランスよく進めていくことが、信頼関係を構築する唯一の道であり、信頼関係こそが、不確実性の時代に事業を行う上で、最も重要な「通貨」となるのではないでしょうか(「第19回世界CEO意識調査/2016年1月」より参照。この記事は、一般情報の提供を主たる目的としていますので、個別ケースに対する専門的見解としてご利用頂けない場合がございます)