仏ソルボンヌ大学のラテンアメリカ高等研究所の所長で、ヨーロッパのラ米諸国に関心を抱く政財界やマスメディア界のトップ顧問の一人として知られる、ステファン・ウィトコフスキー専門家は、「パラグァイは国際社会でよりその存在感及び知名度を高めるべく努力すべきだ」と言う意見である。
これは、当地ABC・Color紙のジャーナリストでFP・フランスプレスや亜国のクラリン紙等の通信員でもあるウーゴ・ルイス・オラサル記者のインタービューに答え、同氏がブラジル及びヴェネズエラの政経破綻問題や、パラグァイに関する驚くべき豊かな知識の披露に及んだ中で述べた事である。
その要旨をまとめると、同専門家は駐伯フランス大使館の財務参事官だった父君に連れられてブラジルに来た15歳の頃から、同国のみならずラ米諸国の研究に強い関心を持ち始めたのが奇縁だったと語る。
そして、現在アルゼンチン及びブラジルで起きているぞれぞれの左派から右派への政治体制の改変は、政治・経済変遷の一つのサイクルであり、加えてボリビアのエボ・モラレス、ウルグァイのムヒカとそれにパラグァイのルーゴ等、各左派政権登場の際にも見られた事象である。
かつては労組員(ルーラ)、原住民インディアン出身者(エボ)、カトリックの司教(ルーゴ)等の門外漢が一国の元首になった例は見た事がなかった。
これは、それぞれオートサイダー(部外者)の政界進出と言える非典型的(アンティピカル)な現象で、政治の改善や進化を切に求める市民の根強い不満に起因した結果だった。
従来の弁護士や企業家出身の多くの政治家は、概して国民の日常生活又は社会事情に疎く、その期待や要望に親身になって応える努力に欠けていた。
ルーラは自賛していったものだ。「余は無学ながらも、前任大統領の全てを束ねた以上に多数の大学や学校を創設した」と。
失墜する左派指導者たち
しかし、問題はそれらアルゼンチン、ブラジル、ヴェネズエラの左派政権は10年~15年の在権中に、多くのあるまじき汚職や数々の失政を犯して、政府の信任や尊厳を全く失墜せしめた事にある。
民主社会では政権の交代制は不可避であるべきところ、前述の各左派政権は非定型な連続再選を狙い、追随者や迎合者に富の安易な再分配を図ったのが罪になった。
確かにルーラの貧民救済政策は、4千万人を極貧生活から脱出せしめた。
ヴェネズエラの場合も、政経倫理を踏み外した為政者任意の独善的な政策に拘らず、重要な社会進歩があった事実は認めざるを得ない。
故チャヴェスはブラジルのジウマ同様何回もの大統領再選を続けた。
こうして見ると、この代償の見返りはなにかと言えば、アルゼンチンでは民主主義が機能した政権の交代があった。
ブラジルの場合はもっと複雑である。法律家の間ではジウマ大統領の連邦議会による罷免審議には、果たして当該法則が正しく守られたものか、未だに論議は区々まちまちである。
ヴェネズエラではマドゥロ大統領は、前任者の故チャヴェス並みの政治人格スケールやカリスマを持ち合わせていないのが問題である。
ラ米に関心寄せるフランス
しかして、フランスでのラテンアメリカの重要性の優先順位と云えば、フランソワ・オランド大統領によれば、ラ米諸国は仏国外交政策の中で大事な対象地域であると言う。
ちなみに、オランド大統領は2012年に就任して以来既に、キューバ、ペルー、ウルグァイその他を歴訪しており、今年8月のリオ五輪ではブラジルを公式訪問する予定である。
フランスの多くの財界要人も大統領の外遊に随行するのが既に恒例化している。
フランス開発庁は政策的に主にブラジル、メキシコ又はコロンビアを対象にして来たが、今後は機構再編を行なって、キューバ等その他の地域諸国にも援助事業を拡大して行く方針である。
キューバのラウル・カストロ国家評議長は同国元首として初のフランス公式訪問をしており、オランド大統領はその答礼にキューバを訪問した。キューバはこのところ人気国である。
最近フランスやヨーロッパ各地で起きた複数の過激派のテロ行為が、改めてフランスの目をラテンアメリカへ向けさせたかと見える。だが、元々フランスは昨今戦乱や回帰性危機に悩む、アフリカや中東地域との伝統的な強い絆がある国だ。
なお、テロとの戦い及び避難民の移住問題対策は国家財政に少なからぬ負担を来たし、かつその対応に政府は行政能力を割かれたが、これはフランスに限った話ではなく、EU諸国でも言える事である。
ラテンアメリカは大した民族的、社会的な紛争や暴力、または内乱の問題もなく、かつ非核化地域でもあり、つまり比較的穏やかな幸福な大陸である。
フランスのラ米諸国に対する投資は常に長期的な企画に沿っている。例えば、ブラジルの場合は現下の混乱した経済情勢にも拘わらず重要な市場であって、避けては通れぬ国である。
〃小巨人群〃の振る舞い
しかし、パラグァイの様に独自の特異性が目立つ国々があり、これ等の「小ジャガー」はチリー、ペルー、コロンビアやパナマその他との『太平洋同盟』に参加する機運に躍動している。
アルゼンチンのクリスティーナと、ブラジルのジウマ各大統領の政権離脱が政界の信頼性を高めたかと言えば、アルゼンチンの場合は新政策を掲げるマクリ大統領登場の政権交代であって、以前よりもプロビジネス的と言える。
この見地からすれば、外資投資家はホッとし落着きを取戻した。マクリ大統領の新経済政策は、外資企業の誘致に積極的で、国際金融界を安堵させ、投資の保障も確約した。
一方、ブラジルは何かと言えば、ジウマの罷免審議(インピーチメント)の結審は未だで、ジウマは完全に更迭された訳ではない。
ブラジルでは政権に対する市民の旺盛な自主性が存在し、同じく多国籍グループ、即ち多くのラ米諸国で云われる巨大な「マルチラテン(Multilatinas)勢力」が根強い。
これは所謂各分野の〃小巨人群〃の勢力であり、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、コロンビア等の国々で、先ずは好調に機能していて、ラ米地域のみならず、貿易同盟によるアジア、ヨーロッパ、カナダやアフリカ諸国への活発な輸出を推進している。
国際的経済危機の中で、南米の二大国に挟まれたサンドイッチ国たるパラグァイに今では多くの国々の関心が集まっている。
確かに、パラグァイはメルコスール(南米南部共同市場)への入り口になれる国である。
大国の狭間にある反骨児
同国のグスタボ・レイテ商工相が去る5月にパリを訪れた時に、Medef(仏・経団連)で企業家グループとの会議が開かれ、ステファン・ウイトフスキー専門家もレイテ大臣と面談する機会を得た。中々説得力があり、パラグァイは進出企業に大変魅力がある国だが、折角それをフランスやEU諸国において、更なる積極的な国際プロモーションをもって持続的に展開する必要があると同専門家は力説した。
問題は、これまでパラグァイは国際社会で余り知られていないのが致命的な泣き所である。Medefはラ米各国の経済使節団とのミーティングを良く持つが、現在のパラグァイ経済情勢ほどに魅力的な好条件を投資家に提供出来る国はないのではないかと言える。
歴史的に見て、パラググァイはブラジルとアルゼンチンのはざまに在りながら、同両国の政治・経済政策に対し、必ずしも常に従順ではない反骨児である。
この点に関し、ステファン・ウイトコフスキー専門家は、パラグァイはメルコスールの中で、または他の地域諸国よりも伝統的に強いアイデンティティを有する国で、その国民は特異な、かつ強烈な気質の持主だと言う。
そして、国民は常に独創的な独自の道を選び歩んできた。なお、先住民グアラニ族の強い影響を受けた、その生きた現実たる特異な遺産文化は模範的で、歴史に知られるものである。
それで、これは今では余り語られないが、ある意味で、パラグァイの産業と経済の特異性が、世界の幾つかの国やヨーロッパの国々に一時はモデルとして看做されたのである。
現在パラグァイは、全体としてのメルコスーから解離し余り観察されないので、パラグァイの特異性が目立たないだけの話である。
では、最後に何が足りず、何を為すべきかを問えば、それは端的にいって、取りも直さずパラグァイのイメージの啓発に積極的な宣伝のプロモーションを国際的に展開する事であり、その為には国の潜勢力を最大限に有効活用すべきだというのに尽きる。
これまでもパラグァイはフランス人の極めて良い印象を得ている。但し、ステファン・ウイトコフスキー専門家が曰くに、「かつて駐パ大使を務めた4?5人の外交官を知ったが、何れも絶対的にパラグァイ贔屓になって帰任している。しかし、そのように唯単に少数派の人達の好感だけでなく、もっと一般にも良く知られるパラグァイ国のイメージ高揚に努力しなければならない」と。
そして、更に続けて、「フランシスコ法王は、三国同盟戦争に破れ、荒廃した焦土パラグァイの再建に健気に尽くしたパラグァイ女性を高く評価し、アメリカ大陸で最も〃栄光のヘロイン〃(女性の英雄)で、正に女性の力は絶対的な役割を果したと称えた。フランシスコ法王は世界の、特にラテンアメリカの為に大変重要な人物で、各国の事情を熟知している。フランシスコ法王は、私が今日ここでパラグァイに関して述べた所見を裏付ける善い証人である」と締め括った。