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今のブラジルを、東京五輪直前の日本に置き換えたら?

国会議事堂(By Wiiii (Own work), via Wikimedia Commons)

国会議事堂(By Wiiii (Own work), via Wikimedia Commons)

 「ブラジルの政治は、何が何だかよく分からない」。五輪取材に日本から特派された記者の多くは、そう首をかしげる。そこで現在のブラジルの状況を、ムリヤリに東京五輪時、4年後の日本に置き換えてみた。これは全て架空であり、どれほど今のブラジルが大変な状況かを理解してもらうための、単なる「たとえ話」だ▼アベノミクス好況の真っただ中、東京五輪の誘致を決めた自民党政権(PTの代わり)は、福祉やバラマキ政策を駆使して貧困層から絶大な支持を集め、選挙では連戦連勝だった。ところが五輪本番2年前、東京地検特捜部により、東京電力(ペトロブラスの代わり)の発電施設や原子力発電所建設に絡んだ空前規模の汚職疑惑が発覚した▼日本最大手のゼネコン(あくまでたとえ話だが)清水建設、竹中工務店、鹿島建設レベルの建設会社が談合クラブを作って、政治家本人や与党に総工費の1~5%を仲介料としてキックバックしていた図式が、特捜部によって暴かれた。大手建設会社の社長ら重役は軒並み逮捕され、減刑と引き換えに司法取引(日本にはまだない)に次々と応じた。その建設会社は公共事業への入札禁止処分となり、建設業界では数万人規模の解雇が発生し、不況が一気に深刻化した▼特捜部に真っ先に逮捕された東電のA部長は司法取引に応じ、どの政治家にいくら払ったかを包み隠さず告白しようとした。すると自民党の超大物、元首相の差し金で、参議院の与党国会対策委員長がA部長の息子と会い、司法取引に応じないように談判した。その際、家族に月160万円の生活費を保証すると確約。さらに最高裁判事を裏から動かしてA容疑者を保釈させ、ニセのパスポートを用意して、こっそり沖縄から船で台湾へ、そこから米国に亡命させるルートまで説明した。でもその息子は信用せず、談判を録音して特捜部に届けた。そのため、その大物参議は「司法妨害」で現役初の現行犯逮捕された▼特捜部は毎週のように波状捜査を行い、判明した事実の断片をマスコミにリークして世論を味方につけ、どんどん与党への国民の信頼を崩して行った。国民は3カ月に一回ぐらいの割合で、国会議事堂前で数十万人規模の汚職撲滅・反政権デモを行うようになり、「首相退陣、政権交代」を大合唱▼特捜部の調べでは関係する政治家は与党を中心に50人以上と予想され、東京五輪の直前に判明しているだけで賄賂総額は2011億円にも上り、第一審では106件の判決が下され、計1148年の刑が言い渡される勢いだ。史上初、空前絶後の汚職事件に発展していた▼五輪前年の成長率はマイナス3・8%に急転直下、五輪の年も同程度と予測され、開幕直前の失業率は11%を超えた。同時に税収も激減し、五輪の年の1月には無料の都立病院(日本にはない)への補助金が払えなくなり「絆創膏やガーゼが買えない」との報道が出て、警察官や消防隊員への給与が遅滞になった。にもかかわらず、五輪施設建設には巨額の資金が投じられていた▼「与党=汚職、不況の元凶」の印象が強まり、次の選挙では勝てないと踏んだ公明党(PMDBの代わり)は、東京五輪の5カ月前の3月、連立与党から離脱を宣言し、民進党らと手を結んで安倍首相の罷免請求運動を本格化させ、4月には衆議院本会議で3分の2が罷免請求に賛成し、動議が参議院に送られた。5月、参議院でもその動議を受け入れて審議が始まり、五輪3カ月前に首相は180日間の停職に。代わりに公明党代表が「首相代理」となり、政権交代を成功させた▼同じ5月、スイスに秘密口座を持っていたことがばれた衆院議長も職責離脱を最高裁から命じられ、東京五輪の真っ最中に、議席剥奪が本会議で審議される可能性がある。さらに首相本人も五輪中に弾劾裁判が始まり、五輪直後に結果が判明する可能性が高い▼そんな状態の時に、国民は「スポーツの祭典」を気楽に楽しめるだろうか。世論調査でブラジル国民の4分の1が、五輪に「氷のように冷え切っている」気持ちになっているのが理解できただろうか。これが日本なら半分以上が冷え切った気持ちになるのでは? (深)