高知県人会青年部(武田アウグスト部長)主催の『第5回土佐祭り』が、20、21日にサンパウロ市アグア・ブランカ公園で行われた。両日とも雨天での開催となったが、県人会手製の郷土料理やコスプレイベントを楽しみに、ブラジル人を中心に約1万5千人が来場した。
アグア・ブランカ公園は、地下鉄バハフンダ駅から程近い場所にある自然豊かな公園で、放し飼いの孔雀が見られることでも有名。週末には多くの催しが行われるが、土佐祭りの評判はその中でも高い。
土佐祭りでは例年、食事と雑貨の買い物が楽しめるバザリスタ区、和太鼓や歌謡ショーなど約40演目が披露されるステージ区、アニメ関連の雑貨販売やコスプレ大会が行われるアニメ・コスプレ区が展開される。昨年は約5万人もの来場があった。今回は、来場者が日系人よりもブラジル人の方が多い点に着目し、柔道や合気道などを体験できるブースを設置し、日本文化の発信に力を入れた。
開催初日、前日から降り続けた雨の影響で、鈍りがちだった客足も、午後の天候の良化とともに回復し、バザリスタ区には多くの人が訪れた。約100軒もの出店が軒を連ねる中、注目を集めたのはやはり、カツオのたたきや鯛の蒸し、すがた寿司などの名物料理を並べた高知県人会だった。
県人会ではこの日の為にカツオ200キログラム、鯛80キロ、ペスカーダ60キロ、海老40キロを仕入れ、婦人部を筆頭に総がかりで調理に当たった。出演者やボランティアスタッフ用の食事の準備も同時に行ったため、前日朝7時から始めた準備が終わったのは夜8時を過ぎてからだった。
「楽しみにしてくれている人がいるから、大変でもやらなくちゃいけないのよ」と明るく笑う婦人部の文野千恵さん(二世、75)。鯛の蒸しは開催前から既に25個の予約が入っており、その人気の高さが伺える。
定番の天ぷらや焼きそば、桜もちも好評で、家族で訪れたフィリス・クラウディアさん(44)は「できることなら全部食べたいんだけど」と迷いながら焼きそばを購入。すがた寿司が気になるようで、携帯電話を取り出して写真撮影。〃珍しい日本料理〃として友人らに見せるという。
午後3時半には開会式が行われ、神谷牛太郎市議、大田マサタカ市議、西本エリオ州議、羽藤ジョージ州議、飯星ワルテル連邦下議(補欠)、中前隆博在聖総領事らが参列。本門仏立宗日教寺による先没者慰霊法要も行われた。
挨拶に立った高知県人会の片山アルナルド会長は、「稀に見る経済不況の中、今年も開催できたのは、協力してくれた皆さんのおかげ」と感謝を述べた。サンパウロ州議会から同県人会婦人部の功績を称えた表彰プレートの授与も行われ、最後は鏡割りで賑やかに式を終えた。
21日には、来年の欧州コスプレ世界大会へ続くブラジル代表地区予選大会が行われるということもあり、多くのコスプレ愛好者が集まった。人気アメリカンコミック『バッドマン』の悪役・ジョーカーに扮したハファエル・ゴービアさん(19)の衣装は、すべてが手作り。
日本のメイドカフェに憧れるブルーナ・ファイル・バンクスさん(21)は同好の友人らとメイドカフェの模擬店を出店した。コスプレ好きの間でも土佐祭りの認知は広がってきているという。
夜8時半、土佐祭りの最後を締めくくったのは、人気アニメ『聖闘士星矢』のキャラクターに扮した12人のコスプレイヤーと日本の日本の有名アニメソング歌手グループ『JAM PROJECT』のブラジル人メンバー、リカルド・クルーズさん、当地で活動する歌手リリサ・タッシさん。同アニメの主題歌を中心に約10曲を歌い上げ、集まったファンを歓喜させた。
今年初めて来場したというパウロ・ブルーナさん(33)は、「今日はとても楽しい一日だった。来年も楽しみ」と、さっそく次回の開催に期待を膨らませていた。
陰で支える婦人部を顕彰=感謝伝える5年目の土佐祭り
20日の開会式でサンパウロ州議会からその功績を顕彰された高知県人会婦人部。普段は裏方として仕事に徹し、表に出ることの少ない婦人部。表彰されたことに対する感想や、県人会に対する思いを聞いた。
授与式に参加した高橋美加さん(三世・51)に話を聞くと、今回は母の高橋マリアさん(二世・73)の代理で登壇したのだとか。マリアさんは25年前から婦人部に参加し、料理好きだった土佐出身の父から郷土料理の数々を受け継ぎ、現婦人部へ伝えたという功労者の一人だ。本日欠席の理由は「まだ2日目の料理の準備が残っていて県人会館の調理場を離れられないから」というもの。
どこまでも裏方としての姿勢を崩さないマリアさんに、電話で顕彰に対する感想を聞くと「昔の日本の男性はありがとうなんて恥ずかしがって言ってくれなかった。『言葉にしなくても伝わっているだろう?』という感じで。だからちゃんと言葉にして伝えてくれるのはうれしいね」と照れながらも喜んだ。
続いては、東加代子さん(二世、68)。17年前から婦人部に参加している。土佐出身の両親を持つが、県人会に入って初めて郷土料理を覚えた。今では鯛の蒸しの調理に関しては免許皆伝の腕前だ。
顕彰について聞くと「うれしいね」と照れながらの一言。「料理は親が子へ伝えるように手伝いながら覚えるのが一番。土佐祭りはその良い機会」と話す。高知県人会では現在、一世会員の高齢化によって婦人部の人数も減少し、積極的に参加してくれるメンバーは約10人と少なくなった。土佐祭りの準備を通じて青年部へ故郷への思いや文化が伝わっていっていることに安心と喜びを感じているそう。
最後は授与式にも参加した片山明子さん(福岡、70)と文野千恵(二世・75)さん。片山さんは、家業の仕出し屋で鍛えた手際のよさで、大人数の料理の手配はお手のもの。祭り前日にはスタッフ用の食事のために160キロものスパゲッティーを茹で、祭り当日には販売業務に招待客の案内等々見事に会場を切り盛りしていた。「これくらいはいつものこと。誰かがやらなきゃいけないから私がやっているだけ」と事も無げに言うあたりに年季の違いを感じさせる。
文野さんは県人会自体には40年前から参加しているが、本格的に参加しだしたのは12年前から。お土産に人気の手作り桜もちの調理担当者。「こんな表彰されたら、また頑張らなくてはならなくなってしまう」と困ったように話す内容とは裏腹に、とても楽しげな様子だった。
高知の良さ知る青年部の声=「よさこい」がほしい!
後進の育成を目的に始められた土佐祭り。参加した青年会員は実際のところ、土佐祭りをどう思っているのだろうか。開催5年の節目にあたって、その心境を聞いてみた。
ピエダーデから参加した川上カミーラさん(三世、24)は、昨年6月から今年3月まで県費研修生として高知県にいた。青年部の多くは、こうした県費研修経験者だ。カミーラさんにとって、土佐祭りは「楽しい時間」だという。青年部仲間との久しぶりの再開が楽しいのはもちろん、研修時代の楽しい思い出が蘇るのだ。
日本語学校に4歳から10年間通っていたので、日本語での会話に苦労はなく、研修も大いに楽しんだ。一番の思い出はよさこい祭りに参加したことで、「土佐祭りにはよさこいが足りない。高知の文化を伝えるなら、よさこいを披露するのが一番良いと思う」とよさこい愛に熱い。よさこい踊りは鳴子(作物を狙う鳥を追い払う農機具)を持って踊る高知名物の一つ、四国三大祭りの一つに数えられている。
当地では高知の「よさこい」と北海道の「ソーラン節」を合体させたヨサコイソーランの方が認知度が高く、そのことに「納得がいかない」とか。いつか人数を集め、音楽や振り付けを考え、本物のよさこいグループを作るのが秘かな夢だという。
高知の良い所について聞くと「ひろめ市場」を推す。相席利用が基本の屋台村で、カツオのたたきをはじめとする和食から中華、インド料理まで何でもある。市場内には「お城下広場」「自由広場」「龍馬通り」「いごっそう横丁」と高知にちなんだ愛称のついた飲食スペースや路地があり、「明るくてすぐに人と仲良くなる土佐の人と相席するとすごく楽しい」のだそうだ。
現状は伝統やノウハウの継承を後進育成の方針とする県人会だが、研修生らが得たこうした経験や知識を引き出し、土佐祭りという舞台で花開かせてやることも方法の一つでないだろうか。
第5回土佐祭りに寄せて=ブラジル高知県人会会長 片山アルナルド
第5回土佐祭りを開催するにあたり、大勢の方々においでいただきましたこと、衷心より御礼を申し上げます。
残念ながら天候が変わり、2日間とも雨天となりましたが、企画しておりましたプログラムが全て無事に終了できましたこと、喜んでおります。
今回の開催に際し、在サンパウロ日本領事館より中前隆博総領事、大くの政界の議員方、サンパウロ観光局、環境局、商社各位のご臨席を賜りまして開会を出来ましたことは、高知県人会、また青年部一同にとり大変な名誉と存じ、心より御礼申し上げます。
経済不況の中で日系市議の野村アウレリオ氏、神谷牛太郎氏、太田マサタカ氏ら、羽藤ジョルジ州議らのご協力があったればこそ開催できたものでございます。
日本の文化、ブラジルの文化をともに紹介し、その中で若い世代の日系、また非日系が交流を図り、自分たちのルーツを見つめて、一つの文化遺産である県人会の継続を願うものでございます。どうか今後とも土佐祭りをよろしく応援いただきますよう、よろしくお願い致します。