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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(14)

ドロドロと鉄が溶けた高炉

ドロドロと鉄が溶けた高炉

 ここミナス州イパチンガ(町)は日本とブラジル合弁の最大のプロジェクトと言われた一貫製鉄所建設の現場だった。
 日本側は数百億円の投資をし、ほぼ全ての設備機材を供給し、一方ブラジル側もそれに見合う資金と人員を投下して、まばらに牛が居るような全くの原野だったところに、生産能力五十万トン/年の近代製鉄所を計画し、建設を始めたのである。
 勝次達はその高炉の建設現場にいた。作業場所は炉頂に近い高いところなので、平坦な製鉄所の全景がよく見渡せた。遠くの方には製鋼や圧延工場がその巨大な姿を見せ初めており、この工事の規模の雄大さを感じさせていた。サンパウロの田舎では見たことも無い大きさだった。
 三郎が言った。
「こうして高い所からデッカイ建屋を見ていると、これから新しい工業の時代が始まろうとしていることが良く分かるな。ほんのこの間まで田舎でエンシャーダ(鍬)を引いていた自分が、こんな近代的な景色の中にいるなんて夢見たいな気がするよ」
「本当だな、俺も身体一つで田舎から出てきたんだが、ここへ来ていろいろな事を覚えたよ。優秀な人を集めて計画を立て、大きな資金を動かして、ブラジル人や日本人が分担を決めて、協力して仕事を進めているんだ」
「そして考えていた事や、計画していた事を目に見える形に変えていく、物が出来る。本当に大したもんだと思うよ。スケールの大きい、『男の仕事』だという気がするな」
 勝次がここまで言ったところで、下の方から「オーイ、行くぞ」とゆう大声が上がり、工事用エレベーターで重い部品を入れた箱が上がって来た。周りの騒音も激しくなった。二人は話を中断して、それぞれの持ち場についた。

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「天然にある鉄鉱石は酸化鉄で、不純物もあり、そのままではもろくて使えない。それでコークス(炭素)を加え、熱風(酸素)を吹き込んで還元させて銑鉄を作る。このプロセスを行う容れ物が溶鉱炉―別名高炉で、内側は千六百度以上の高熱に耐える耐火物を組んであり、外側は鉄板で覆われている」
 いよいよ高炉の操業開始も近くなり、建設だけでなく、操業を見越してその要員もボツボツ入って来た。製鉄など全く知らないという人も多かったので、製鉄所としては建設と並行して、そのような説明をして新人の教育、訓練もしなければならなかった。