ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 「カンヌで物議」の問題作が異例のヒット中=国際的評価も高い「アクエリアス」

「カンヌで物議」の問題作が異例のヒット中=国際的評価も高い「アクエリアス」

 9月最初の週末、ブラジル国内では、国産映画「アクエリアス」が異例のヒットを記録した。
 週間ランキングでは、諸々のハリウッド映画に圧されて10位だったものの、同作の公開映画館の数は全国でわずか89館に過ぎないのに、4日間で5万4千人が観に来たというのだから、その繁盛振りが想像出来る。この最初の週末での動員数は、今年公開されたブラジル映画では、大掛かりな宣伝でブラジル映画史上屈指のヒットとなった歴史大作「十戒」のリメイク「オス・デース・マンダメントス」に次ぐものだ。
 それにしても「アクエリアス」のヒットは全く意外なものだった。そもそもは、国際的に有名なカンヌ映画祭に出展したような芸術性の高さで勝負した作品で、大ヒットを事前から見込んだ娯楽作では全くない。通常なら小型のミニ・シアターでの限定公開が普通のタイプの作品で、実際にそういう公開の仕方だったのだが、映画館が追いつけないほどのヒットとなった。
 このヒットの要因は、事前からの評判の高さだろう。新聞や雑誌の批評では、のきなみ高得点を記録。カンヌでも、最終的には無冠に終わったものの、評判はすこぶる高く、何かを受賞してもおかしくはなかった。
 実際に国外のメディアで出た批評も良く、世界的な映画指標サイト、imdbでの採点も、10点満点中7・7点と、アカデミー賞ノミネート作並の高さとなっていた。
 ただ、この作品が話題となったのは、この映画の出演者たちがカンヌ映画祭のレッドカーペットで「ジウマ大統領のクーデター反対」という紙を掲げて抗議運動を行ったためだ。
 ブラジルの芸能界関係者はかつてから、ジウマ大統領が所属する労働者党(PT)との関係が強いので、その事情は差し引いて考えねばならない。実際、ブラジル国内では熱狂的な賛同と、激しい批判の両方を受けた行動だった。ただ、それがこの映画への好奇心を高めたのは事実だった。
 この「アクエリアス」は、かねてから見所が多い作品だった。監督のクレベール・メンドンサ・フィーリョ(47)は、2013年のデビュー作「オ・ソン・アオ・レドール」がいきなりアカデミー賞外国語映画賞のブラジル代表作に選ばれたほど、国内では将来を最も有望視された若手監督だったし、主演のソニア・ブラガは70年代のブラジル最大の女優で、80年代にハリウッドに進出、「蜘蛛女のキス」の成功で国際的な注目も浴びた名女優だ。そんな彼女の久々のブラジル映画主演作としても話題だった。
 この「アクエリアス」は、海岸リゾート都市として知られる北東部ペルナンブッコ州レシフェで生活し続ける音楽評論家のクララ(ソニア・ブラガ)が、長年愛してきたアパートの地上げの危機にさらされ、それを断固として拒否し続ける姿を描いた作品だ。
 そこでは、近代的に変わりつつある現在のブラジルの姿を、ブラジルの70年代の音楽文化を築いてきたマリア・ベターニアやロベルト・カルロス、ジルベルト・ジルの音楽や、クララの書斎に並べられたアナログ・レコードの数々、自分の人生の過程で拭い去れない記憶と対比させて表現した映画だ。進化は遂げてはいるものの、どこか空虚で大事なものが忘れられがちなこの頃のブラジル、といったところか。
 また、信念を曲げずに生きるクララの姿に、「テメル政権の<クーデター>にとって代わられたジウマ氏支持者が、反抗を続ける姿に共感を得た」との意見もある。奇しくもこの週末は、罷免された直後のジウマ氏を擁護するためのデモが全国的に行われ、タイミングがちょうど重なった。
 解釈は自由だが、いずれにせよ、同様のテーマながら前作より格段にわかりやすくなったクレベールの作風と、「一世一代の名演」と称されたソニア・ブラガの名演で、本作は昨年世界的に話題になった「ケ・オラス・エラ・ヴォウタ」に続くブラジル映画界、近年の傑作との呼び声は高い。
 ただ、前述のカンヌでの行為を問題視する声も少なくないため、「アクエリアス」が今年のアカデミー賞外国語映画部門でのブラジル代表作の座を取れるかは微妙だとも言われている。だが、仮に逃すようなことがあった場合、本作の場合にはそれが逆説的に勲章になりそうな気配も漂わせてはいる。(5日付フォーリャ紙サイトなどより)