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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(20)

「銅製品のスクラップが有ったら見せて貰いたいんだが」
「最近銅製品を売りにきた者はいないかね。こんな丸い形をしたものなんだが」
 勝次と三郎はベロオリゾンテの古鉄銅屋を一軒一軒訪ねて回った。
 前夜遅くホテルに着いてからすぐ電話帳でスクラップ業屋を拾い出しリストを作って、あたり始めていたのである。電話では相手の表情も掴めないし、「知らない」と言われればそれでお仕舞いだ。いい加減に誤魔化されないように店の置き場を自分の目で確かめる意味もあって、直接訪問することにしたのである。
「ないな…」
「うちは鉄しか扱っていないよ」
 こうして午前中はむなしく過ぎた。午後になって、更に2軒回ったがあたりがない。
「ないのかな――」
「もう溶かされているのかな」
 前日からの緊張もあって、疲れがドッと出てきた感じだ。
「羽口が見つからなかったら、火入れはオジャンだ」
 高炉の仕事、完成は勝次たちの責任になる。目の前が真っ暗になる思いだ。
 同じ日のうちに更に数軒訪ねて、アマゾナス通りの古鉄屋を当たった時だ。
「うん、そんな物を持ってきた男が居る。もう十日ほど前になるかな。覆いをめくって一寸見せて貰ったところつやがあって、スクラップには見えなかった。どうも胡散臭かったので、うちでは引き取らなかったがな」と云う返事にあたった。
「えっ、それで!」目の前がパッと明るくなった気がした。そして更にいろいろ聞いてみたが、それ以上具体的な事は分からなかった。しかし、男が「ベロ市内でなく、コンタージェンのほうへ行ってみたらどうだ。コンタージェンにはマンネスマンとか大手の工場が沢山あって、メタルスクラップを扱う店もあるよ」と教えてくれた。
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 もう午後六時を過ぎていた。急いで訪ねた『スカタリア』は大手だった。
 現われた男マリオに、「こんなものを探しているんだが」と勝次が言うと、「銅スクラップならあるよ」と先に立って置き場に案内してくれた。
 山と積まれている銅部品クズをかき分けると――「あっ、これかッ?!」
「あったかっ!」
 勝次も三郎もマリオに気取られないように、心の中で叫んだ。屑の山の中を探してみると、羽口は3個あった。だが、取り出してよく調べてみると乱暴に扱ううちにそうなったのか、何れもへこんだり、傷ついたりしている。
 これではそのまま使えるかどうか分からないし、個数も足りない。ガッカリだが、とに角現物に出会って勇気は百倍した。この周辺を探せば、まだあるだろう。
 代金は小切手で支払って、取り合えずの3個を確保した。あと一歩だ。だが、時間に余裕はない。今日中に見つからねば、もう所定の火入れ日には間にあわないのだ。
「何とか間にあってくれ」とマリオに教えて貰った『ゼー』の店に着いた時、あたりはもう暗くなっていた。五十年配の髭を生やした男が店を閉めているところだった。もう回りくどく言っても時間がない、と勝次を三郎は前のマリオの店で入手した現物を見せた。
「これが欲しいんだが」
 ゼーは髭ずらの中から探りを入れるような目で二人を眺めた。
「お前らは何にするんだ。あれば、いくら払う気なのか」