第68回全伯短歌大会(椰子樹、ニッケイ新聞共催)が4日、文協ビル内のエスペランサ婦人会サロンで開催され、例年並みの45人が参加し、一年振りの歌友との再会を楽しみつつ歌作りに励んだ。応募された214首の中から、栄えある互選得票の最高得点歌には31票を獲得した鎌谷昭さんの〈さりげなく席譲り去る若者に託してみたしこの国の未来(さき)〉が選ばれた。
司会の多田邦治さんから初出席者の徳力洋子さん、吉田五登恵(いとえ)さん、鈴木正威(まさたけ)さん、堀合昇平さんが紹介された。
当日発表された互選総合高得点の1位(計37票)には<くり返しまた読み返す亡き母のカナ文字ばかりで綴りし手紙(ふみ)>(26票)、<一人暮らしなれたと友に言いつれどうつろなる日のたびたびありて>(11票)を詠んだ中島すず子さんが選ばれた。
2位(計36票)には<移り来て永の旅路もやがて来る残せし歌をわが墓標とせん>(5票)、<さりげなく~>(31票)の鎌谷昭さん。
3位(計31票)は<連れ立ちてバス停にゆく下り坂膝病む妻をいくたびか待つ>(20票)、<吾を見上げ吾子は涙をためていき銭なく玩具買えざりし日に>(11票)の谷口範之さん。
ニッケイ新聞からの題詠「五輪」が当日出題され、1位には<貧しきに育ちし少女金メダル荒みし国に五輪の光>(高橋暎子)、2位には〈五輪旗のはためくリオの春の風東京までも海越えて吹け〉(富岡絹子)が選ばれた。
「~今盛りなり」を必ず歌中に入れる約束事の今回の独楽吟。最近流行っているスマホ用ゲーム「ポケモンGO」ブームの様子を<若人も子供もみんな手にスマホポケモン捜し今盛りなり>(吉峰倫=とも=子)と詠んで1位になった。
上の句を女性が、下の句を男性が詠む「アベック歌合わせ」では<春陽炎ゆらぐむこうに見えるのは君の家なりいざ訪いゆかん>(金谷はるみ・藤田朝寿)が1位となった。
途中、在聖総領事館の関口ひとみ首席領事がゲスト講演をし、5年前に他界した父・渡辺光さんに関し、「父が週末ごとによく歌会に行っていたのを思い出した。こうして皆さんとお会いしていたのだと思うと、感慨深い」と切り出し、同館の業務を説明した。
作品の批評と鑑賞では<プールサイドのモレーナ(混血女性)に見惚れ居る二羽のウルブー塀を離れず>(新島新)を選ぶ人が複数おり、中でも小池みさ子さんは「若い女性に見とれる若者をウルブー(鷹の一種)に擬人化して詠んだもの。風刺の利いた面白い作品」と評価した。
また<開拓地の初期に犠牲となりし墓ずらりと並ぶ幼児の名前>(水野昌之)に対し、酒井祥造さんは「土盛りして十字架を立てただけの簡素な墓もたくさんあった。移民史を感じさせる歌」との感想を述べた。
閉会の挨拶で、宮本留美子さんは「日本語の先生に連れられ、子供の頃から大会に参加していた。年々人数が減るのが実感され、少し寂しい。絶対に来年もまたお会いしましょう」と締めくくった。
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全伯短歌大会の当日に配られた大会出席者の動態表によれば、1949年に行なわれた第1回大会参加者は59人。今回よりも14人も多かった。最多は1984年の134人。今回の3倍だ。最初から一貫してエスペランサ婦人会サロンが利用されてきたので、椅子や机は相当キツキツだったに違いない。80年代はずっと100人以上を誇り、90年代には80~70人、2000年以降は60人前後、2010年以降は50年前後に。人数は減っても、参加者は「少数精鋭」とたくましく笑い飛ばしていた。