「レジストロ市発展のために、とお願いされたら仕方ない…」。サンパウロ州南部にあるリベイラ河沿岸日系団体連合会の山村敏明会長は、残念そうにため息をついた。海外興業株式会社(KKKK)が1922年にレジストロ市に竣工した精米所と倉庫群は、州有数の歴史的建造物として2002年から日本移民史料館として活用されてきた。市はSESC(商業社会サービス=民間の文化・スポーツ振興団体)誘致を念願してきたが、「KKKKの建物を使えるなら」との条件が提示され、仕方なく手渡した。展示品は7月に撤去され、新しい史料館建設を待っている状態だ。市発展のために地元文協が涙を呑んだ形になっている。
展示物は7月中に撤去されてKKKKは空にされ、8月から内装工事が始まっているという。展示品は小学校や文化局の建物に一時的に置かれ、新しい史料館が建設されたら戻される予定。
「地方統一選挙が終わったら工事を始める予定」と山村さんは聞いているが、「問題は資金が半分しか集まっていない事。18カ月間で工事は完成すると聞いているが、移民110周年(18年)頃になるかも」と見ている。内部の展示計画もこれからだ。
新史料館は幅11メートル、長さ65メートルの平屋建て。予定地は8月に盆踊りをするリベイラ河沿いの広場だ。総工費は107万レアルで、うちサンパウロ州政府が負担する半額50万レアルはすでに振り込み済み。問題は市が負担するはずの残り57万レアル。
SESCレジストロは、サンパウロ市の同ポンペイアをイメージし、歴史的倉庫群の建築を活かした文化スポーツ複合施設になる見通しだ。
レジストロ文協の福澤一興(かずおき)会長によれば、SESCが同建物に興味を持つ雰囲気は数年前からあったが、「今年に入って急に具体化した」という。7月14日に同建物で「SESCレジストロ」幹部就任式が行われた。同24日には文協が臨時総会で同施設の利用をSESCに許可することを承認した。
海興の前身・東京シンジケート(青柳郁太郎代表、東京所在)は、永住を目的とした最初の移住地「桂植民地」を1913年に開設。海興は当初この「イグアッペ植民地」の基幹作物を米作と考え、桂、レジストロ、セッチバーラス、キロンボなど次々に設立した。うち最大だったレジストロ植民地の中心部に当時南米最大規模の精米所と倉庫群を1919年に起工、1922年に竣工した。
その建設群は、1987年にサンパウロ州歴史遺跡認定局(Condephaat)がその重要さを認めて文化財に指定した。99年に改修工事が始まり、市と州が共同で改修して「文化教育センター」に生まれ変わり、02年1月にレジストロ移民史料館が精米所部分に開館した。
2010年7月24日にはリオの国立歴史美術遺産院(IPHAN)で『ヴァーレ・ド・リベイラの文化風景』の一部として連邦の文化遺産にも登録されている。