ところで、この地区には監督という者がいる。月に一度くらい馬に乗って、仕事の進み具合を見にくる。やかましい小言は何も言わずに、十五分もいたら帰って行く。
父に期待する者はいない。だれも口にこそ出さないが、この家の中が平穏であることだけを願っていた。
そんな父が珍しく、せかせかと庭の土をいじっている。見ると、日本にあったと同じ、手のひら位の畑を作るつもりらしい。やがて巻尺を使って、地面を計り始めた。数歩下がっては、畑が曲っていないかにらんでいる。
みな声を殺して笑ってしまった。
野菜を作るなら、コーヒーの間作で簡単に出来る。肥料もいらない。この土地は肥沃で十年保証されている。
ここの土地は黒っぽく、手にすくいとるとまるで、ふかふかの茹でたさつまいものように優しい土だ。
とにもかくにも、あのように全く当てにならない父でも、大人しく遊んでいるだけで、家族はほっとするのであった。
秘 め ご と
話は戻る。
妊娠の話が出たついでに、語りたい。私は十三歳になっていたある日のことである。 今は亡き祖母が、私たち家族と住んでいた。明るい日差しの炊事場で、掃除をしていたその祖母の許へ寄っていった。どうしても尋ねたいことが出来たのだ。
「ねえ、ばあちゃん、人間はどうしたら赤ちゃんが生まれると?」
「…………」
「ばあちゃん、ねえ、教えて!」
「…………」
「どうしたら子供が生まれるとかね? ばあちゃん! ねえ、教えてっちゃ!」
祖母は、わたしのしつっこさに負けた。
「犬のごと(ように)するとたい!」
と、やけくそのように答えた。この一口で分かりやすい説明に納得して、祖母から離れた。ショックはなかった。たまたま丁度、オス犬が交尾を終えて、メス犬と離れたところを見たことがある。オス犬の一物をはじめて見た。
あれはなんだ! と思うようなものが、赤く濡れて光っていた。数十センチもあるひも状の物が、まだ跳ね返りそうに地面に垂れずに踊っていた。それを思い出していた。ただ心配になってきた。あんな長い物を、突っ込まれたら、お腹は破れてしまうんじゃあないか?
でも隣のおじさん夫婦も、他のみんなも何くわぬ顔で生きている。ちゃんと子供ができて増えているのだ。それはそれで、きっとなんとかなっているのだろうと、割り切った。
それにしても、父と母があの犬のようなことをして、私たちを産んだのだということが分かった。なにか、がっかりしたような複雑な気持ちであった。とにかく男性の性器とは、犬のように細くて長く、濡れて赤いものだと思い込んだ。私はこのことを、十九の年まで疑ったこともなかった。
その私が、あの船の中で始めて、茂夫に抱かれたのだ。彼に身を任せていて思った。―これは変だ。かなり痛い。自分の体には何か異常があるのではないか? こんなに痛むはずがない。私は彼の下から首を持ち上げて、見てみた。懸命になっている彼のあそこを…… 仰天した。赤いひもだと思い込んでいたそれが、全く想像とは違っている……。
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