あの愕きと恐ろしさは忘れられない。犬と全く違うのはいいとして、あんなものが私の体の中に入るはずがない。恐怖と緊張に目をつぶった。その時である。深刻な茂夫の声がした。
「おかしいなあ……ここだと思うけんど……」
その声で、やはり彼もそちらの知識は無いらしいことが分かった。そうとうな時間が経って無事、初夜は終わった。
その日を境に、大変なことになった。茂夫が毎晩のように要求してくるようになったのだ。行為はそれほどいやらしいものではなく、淡白ではあるが、なにしろ若い。一回でも多く、私の体を欲しがる。私は、これには困り果てた。うるさいし、何よりも恥かしい。船の中の室は、各二段に仕切ってある。その仕切りは薄っぺらで、上段で人が動くと、そのまま大きく揺れる。下から眺められているのは間違いない。
この船には、コチア青年という団体が乗り込んでいる。その一部の六名が、私たちの寝起きする室の裏側に寝ている。その裏側との仕切りは、黒っぽい分厚い布のカーテンになっている。その日も、食事が済んで共同風呂にも入り、夜がやってきた。この夜もうす暗い中で茂夫が、私にかぶさって来た。その時である。彼の下からふと隣とのカーテンに目をやった。ギラーッと光るものがある。よく目を凝らしてみると、人の目玉である。それもカーテンの隙間に沿って、幾つかの間隔で、目玉が縦に並んでいる。
私ははっとして茂夫を突き放し、隣へ向かった。そして声を荒げて、怒鳴り込んだ。一瞬、この精悍な青年たちを、敵にまわすことをためらった。しかしたった今のこの恥かしさは、この時の恐怖を跳ね返して、怒りに変わっている。
ただ、こうして騒いでいることに、父母も茂夫も恥かしいのか、しんとしていた。青年たちは、眠ったふりをしている。それが彼らの芝居だと分かるのは、いくら彼らの枕元で、私が大声を出しても、だれ一人反応しない。そのことこそが、かえってばれている証拠だ。しばらくすると、
「うるさいなあ、もう……」
と、わざと寝ぼけた声で演技する者もいる。つまり、この六名の男共は、交代で私たちの秘めごとを盗み見て、楽しんでいたのだ。結局、逃げ回るばあちゃんを掴まえて、あの秘密を知りたがっていた、少女の私。
「見てはいけないことを、知っていても見たい青年たち」
みんな変わらない。
そんな騒動が落ち着いたある日、あまりの船酔いに診察を受けた。
「妊娠です」と言われた。太平洋の真ん中で、子を授かった。
と う も ろ こ し
仕事は家の近くから始めたので、気付かなかったが、七日後のことだ。西側一帯に、とうもろこしの収穫した後が見つかった。見て回っても同じようなものだろうと、だれもこの広い土地を、隅々まで見なかったのだ。私たちの前に入っていた人たちが、植えたものであった。至る所に、とうもろこしの実がころがっている。まだ立っている木にまで、乾燥した実があっちこっちに付いている。まったく大ざっぱな収穫である……。うす茶色の皮を剥がしてみると、よく実った粒がびっしりと並んで輝いている。
私たちは、さっそくこれを拾い集め芯から実をとるため、機械を使って実をこそげ落とした。大粒の赤味がかった黄色が、大量に波打っている。全部で約百五十キログラムあった。
このとうもろこしが、後に私たちの命を救うことになろうとは、夢にも思わなかった。