現在、ブラジルでは、10月2日に行なわれる全国市長選のキャンペーンの真っ最中だが、26日、リオ市長選でのキャンペーンで、今のブラジルの状況を象徴したかのような事態が起きた。
この日、ルーラ元大統領(労働者党・PT)は、PTの古くからの同盟党・ブラジル共産党(PC Do B)の候補ジャンジーラ・フェガーリ氏の応援演説のため、自宅のあるサンパウロ州からリオまでかけつけた。
ルーラ氏がここまでやる気を見せているのは、現在、同市長選で支持率トップに立っているマルセロ・クリヴェラ氏(PRB・ブラジル共和党)が、愛弟子のジウマ前大統領(PT)の政権の閣僚(水産相)だったのにも関わらず、ジウマ氏の上院での罷免投票の際に罷免賛成に加担したことを恨んでいるためだ。
ルーラ氏はここ数週間、豪邸を媒介としたゼネコンとの贈収賄疑惑で検察庁から訴えられ被告となり、強いイメージダウンを受けているが、それでも根強い左翼系支持者からは熱烈な支持を受けている、と受け止められていた。
だが、このルーラ氏の応援演説の裏でこの日、皮肉なことが起こった。大御所歌手のシコ・ブアルキ、ブラジルきっての大物俳優のヴァギネル・モウラ、歌手のレニーニら、芸能人の集団9人が別の候補の応援にかけつけ、これが驚きをもって迎えられたのだ。
それは、ブラジルの芸能界が、熱烈なPT支持、とりわけその象徴的存在のルーラ氏の支持者として古くから有名だったためだ。
とりわけシコ・ブアルキはルーラ氏と非常に密接で、8月31日に行なわれた上院でのジウマ前大統領の弾劾裁判では、2人共に議事堂にかけつけ、席に並んで座って、ジウマ氏の様子を背後から見守っていたほどだ。
また芸能人たちは、ジウマ氏を追いやって副大統領から大統領に昇格したミシェル・テメル大統領に反感を抱いており、現在もなおも続くテメル大統領への抗議デモに足しげく通う姿も目撃されているほどだ。
彼らとPTの結びつきはそれほどまでに強いと思われていたが、彼らがこの日かけつけたのは、マルセロ・フレイショ候補(社会主義自由党・PSOL)の応援だった。
このPSOLという政党は、ブラジルの現在の左翼政党の中でももっとも急進派の政党として知られている。議員数のきわめて少ない政党ながら、LGBT保護の運動を積極的に行なったり、同党のリーダー的存在のルシアナ・ジェンロ氏が2014年の大統領選で4位になるなど、政党規模以上の印象を残している。
このあたりの活動展開は、与党を13年つとめ、数々の汚職疑惑で党のイメージを傷つけ、遂には大統領罷免処分まで受けた現在のPTとはかなり違って見える。
このPSOLにこそ、学生運動家や労働組合者を中心に結成され、保守系の野党を厳しく攻撃していたかつてのPTの姿を見たい。この日、フレイショ氏の応援にかけつけた芸能人たちの本音はそういったところか。
ちなみに現在のリオ市長選の世論調査では、フレイショ氏が、テレビでの選挙CM時間などが満足に与えられない情況にも関わらず3位、ルーラ氏の推すジャンジーラ氏が4位となっている。
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