サンパウロ市文協ビル内の移民史料館が4日、水野龍による笠戸丸の航海日誌展示に当たり、同館で開幕式を行なった。会場には水野龍の三男である龍三郎さん(85、二世)はじめ、約20人の水野一家を含む約80人が来場し、公開を祝った。
〃移民の祖〃水野龍による航海日誌は、山中三郎記念バストス地域史料館に展示されていたもの。今年3月にサンパウロ市史料館と共同所有することになり、同月12日に調印式が行われた。
森口イグナシオ忠義運営委員長は、「多くの協力と努力で一般公開が実現。水野龍は日本人移民の第一人者で、この企画展は史料館の歴史の1ページになる」とあいさつし、喜びを語った。
文協の山下譲二副会長やバストスの牧勝秀文協会長、ヴィルジニア・フェルナンデス市長ほか、中前隆博在聖総領事などが祝辞を送った。
パラナ州クリチバ市から訪れた龍三郎さんは式中、「母から『いつも父は日本人移民の問題を考えていた』と聞いた」と涙を流し、亡き父の思い出を語った。
「父が『土佐村』の資金集めで訪日した間、移民が『父に騙された』と母を罵り、家のものを奪っていった。とても悔しく、黙って耐える母の後ろ姿を良く覚えている。思い出は色々あるが、こうした日を迎え父も喜んでいると思う」と声を絞り出すように語った。
サンパウロ州スザノ市で1970年10月にブラジル初の水野龍展を開催した、大浦文雄さんの発声で乾杯。また開幕を祝し、龍三郎さんやフェルナンデス市長らがテープカットした。
コーナー内には水野龍の肖像が飾られ、航海日誌が読める電子端末が設置された。日本とブラジルの時代背景と共に同氏の経歴がバナーで飾られ、着物や扇子などの生活用品、実物の航海日誌ほか著書「海外移民事業ト私」の原稿などがガラスケース内に展示されている。書類のコピーはラミネート加工され、手にとって読むことができる。
展示品は時代の流れに沿って設置され、子孫6代目までを紹介した顔写真付きの家計図もある。終盤には、2008年6月18日に水野龍を取り扱ったNHKの番組「その時歴史が動いた」の映像も用意された。
龍三郎さんは本紙に対し「100年以上かかって、やっとブラジル移民の祖として大きく扱われ多くの人に認められる。母か父が今日ここにいれば…」と、感慨深い様子で公開について話した。
展示期間は来年1月29日までの火~日曜午後1時半~同5時。
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水野龍の航海日誌公開記念式には、縁のある本門佛立宗の僧侶らも来場し、展示品を眺めた。笠戸丸には水野龍と共に、同宗派の茨木日水上人が乗船したことで有名。モジ隆昌寺のコレイア住職(49)も、「公開をずっと待っていた。先駆者である水野龍の功績が確認されていく」と公開に喜び。
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また山下リジア運営副委員長は、「見た人にブラジル移民の始まりを知ってほしい」と期待。公開までの苦労として、史料探しに日本の外交史料館や国立国会図書館などを訪れたという。家計図作成にも苦心したが、調査に協力した水野家が連絡を取り合うようになったそう。「家族が集まるきっかけになったことが嬉しい」と、展示を眺める水野一家を見て微笑んだ。