日曜(27日)昼、ラジオを聞いていたら突然、テメル大統領らの臨時記者会見の生中継に切り替わって驚いた。下院議長、上院議長を横に従えて「Caixa2(二重帳簿)の恩赦法案が来ても私が否決する。その件に関する上院、下院との合意ができた」と発表した。その理由として「私は『ヴォス・ダス・ルアス(街頭の声)』に従う」と説明したのに、ほぅ~と感心した▼その日のエスタード紙国内面のトップ記事には、「恩赦反対、抗議団体は『テメル出てけ』デモを準備」との見出しが躍っていたからだ。政治家の汚職を厳罰化する法案の中に、二重帳簿の過去事例はすべて恩赦にする条文が加えられ、下院特別委員会で承認され、上院に掛けられる寸前、最後の望みは大統領の拒否権のみ―という状況にあった▼同記事には、二重帳簿の恩赦法案の可決を阻止するために、主だった抗議運動団体が12月4日(日)に大規模な抗議デモをパウリスタ大通りで開催すると呼びかけていた▼記事の直ぐ下には、ジウマ罷免を求める抗議運動の中心となった人物や団体の代表者の意見がズラリと並び、「テメルの采配を監視」「テメルがどう振る舞うかにかかっている」などの厳しい見方が紹介されていた▼3年前のサッカーコンフェデレーション杯の時、ジウマ政権の要人は「10万、20万人のデモなど国民全体のほんの一部」と見下していた。ところが、どんどん街頭の抗議デモが大規模化し、結果的にそれが反PT・ジウマ罷免運動を実現させた。新しい民主主義の始まりだった。それが街頭だけに留まらず、その方向性と勢いが今年10月の地方統一選挙でそのまま結果として現れた。PT候補は惨敗し、PMDB、PSDBなどが躍進した。票に直結するから、テメルは「街頭の声」を聞く必要があると判断した▼加えて、テメルの尻に火がついていたこともある。ジェデル大統領府総務室長官の辞任が遅れたことで、事態が悪化していたからだ。カレロ文化相(当時)は「テメルとの話し合いを秘密裏に録音して連邦警察に提出した」との情報が流れていた。テメルが「政治にはよくある事。上手に処理しろ」と暗にジェデルに従うよう示唆するコメントが録音されているとの噂で、テメル罷免を求める動きが一気に勢いづいていた。二重帳簿恩赦問題と今件への対応が遅れれば、テメル罷免審議開始もありえる状況だった。だから異例な「日曜の昼」に緊急会見を開いた▼その直前、テメルの目の前は一筋の希望の糸がたれていた。恩赦法案をムリヤリに進めていたのは、与党筋の議員であり、それに対して大統領拒否権を行使すれば、仲間を敵に回すことになる。もしPSDBまで離反すれば、罷免審議は現実味を増していた。そんな25日、FHC、アエシオ上議、アウキミンサンパウロ州知事、マルコニ州知事(ゴイアス)らPSDB要人が大統領官邸を訪れ、テメル支持を表明した。逆に「雨降って地固まる」的な展開となり、長老FHCは「ここに未来の大統領がいる」と発言した。つまり2018年大統領選で、与党側はPSDBから候補を出すことで意思統一されたようだ▼二重帳簿恩赦法案がムリヤリ進められていた裏には、ラヴァ・ジャット作戦で捕まったオデブレヒト社の幹部全員の司法取引が締結寸前まで来ていることがある。なんと150人もの政治家名が暴露されているらしい。賄賂の大半は、二重帳簿に振り込まれているから、暴露された政治家の大半は二重帳簿の件で犯罪を立証されることになる。それが始まる前に、過去の分の二重帳簿を恩赦にしておくという悪あがき法案だった▼テメルは最優先課題の「歳出上限法案」を通すことを連邦議会にお願いしている手前、仲間の議員のわがままも多少は聞かないと、という状態でズルズルとしていた。でもこの記者会見でスパッと断った。とはいえ「歳出上限法案」への協力が減る可能性もあり、予断を許さない状況が続きそうだ。(深)